後日談第15話 元町人Aは現地調査をする
ミリィちゃんと変態をエルフの里へと送ってから俺たちはヴィーヒェンへと戻り、その足で義父上に会いに行った。
「おお! 二人ともよく戻った! どうだったのだ?」
「はい。風の神様の言っていた意味が分かりました。迷宮を作り、そこを神殿とします」
「何? 迷宮だと? あれは人の手で作り出される物なのか?」
「ロー様の助けを借り、古い書物に書かれていた内容を教えてもらいました。【錬金】のスキルを使い、疑似迷宮を作ります。そのうえで二柱の神々のお力をお借りし、疑似迷宮を真の迷宮とします。こうすることで迷宮は常に風が吹き常に氷のある場所となりますので、その最深部を風の神様と氷の女神さまを
「そのようなことが可能なのか……?」
「義父上、ルールデンの近くに古代迷宮の跡とされる遺跡があったことを覚えていますか?」
「うむ。二人で研究をしていたものだな?」
「はい。あれこそが、疑似迷宮の遺跡なのだそうです。疑似迷宮は神の加護を受けることができず、コアに蓄えられた魔力が尽きた時点で力を失ったのだと思われます」
「……だが、迷宮は魔物を生み出すではないか。あれは本当に神の御業なのか?」
「ロー様によれば、迷宮が魔物を生み出すのは神への祈りが途絶えたからだろうとのことでした」
「むむむ、そのようなことがあるのか。ということは正しく神へ祈ることができれば、既存の迷宮の脅威をなくせるということだな?」
「その可能性はありますが、現実的には難しいと思います」
たしかに魔物を生み出す迷宮は厄介な存在ではある。だが一方で、アルトムントのように地域経済を支えてくれている部分もあるのだ。
本来であれば祈りをきちんと捧げるべきなのだろうが、一筋縄ではいかないのが悩ましいところだ。
それにそもそも、俺たちが知っている迷宮がどの神様を祀っているのかもわからないのだ。どうしてことごとく失伝しているのかについては謎が残るが、現実問題として祈りを回復させるのは難しいだろう。
「それもそうか。それで、二人は迷宮を作るのだったな?」
「はい」
「迷宮はどのような場所が必要なのだ?」
「ある程度の土地さえあればどこでも大丈夫です。それよりも、祈りが絶えないように町も作りたいのですが……」
「む、そうだったな。二人に領地を任せるという話をしていたが、これがちょうどいい機会かもしれんな」
義父上はそういってラムズレット王国の地図を広げた。
「ならば、この西の海岸一帯はどうだ? このあたりには手つかずの森も広がっている。ここならば過度にエストを刺激することもない。セントラーレンはウェスタデールはあまりいい気はしないだろうが、エストを刺激するよりははるかにマシだろう」
「わかりました。では今度現地を調査しに行こうと思います」
「うむ。そうしなさい」
こうして俺たちは西の海沿いにある未開の森を領地としてもらうことになったのだった。
◆◇◆
「見渡す限り森だね」
「ええ」
俺はアナとブイトール改2に乗って領地となる予定の場所を空から視察している。
眼下には広大な森が海岸線にまで迫っており、陸に目を向けても高台はかなり遠い。
この地形であれば、町や迷宮を作るのは海岸から少し離れた場所にしたほうが良さそうだ。ラムズレット王国で地震が起きたという話は聞いたことがないが、嵐はやってくる。
「アレン、このあたりではないほうが良いのではありませんか?」
「そうだね」
どうやらアナも同じことを考えているようだ。すぐさま機首を内陸方面である北に向け、建設に適した場所を探していく。
そうしている間にもブイトール改2は地形のデータを読み取り、内蔵しているコンピューターに記録していく。
そう。ブイトール改2はブイトール改を大型化し、さらに各種センサーを取り付けて測量もできるようになっているのだ。
もちろんこういった話について俺は門外漢なので、詳しい設計書を作ることはできない。
だが月の魔草の種を食べ、俺とアナの魔力はもはや人間をやめたのではないかというレベルにまで達している。そのおかげで、ふわっとしたイメージでもそれなりのものを作れるようになったのだ。
そうなるとやはり根がエンジニアの俺は火がついてしまい、やたらと電子化された――魔力を使っているので魔動化という表現のほうが正しいのかもしれないが――機体に仕上がったというわけだ。
そのまま北に向かって数分ほど飛んでいくと、森の植生が明らかに変化してきた。
「このあたりからは土壌に塩分が少ないのかもしれないね」
「どういうことですか?」
「普通の植物は海水の塩分で枯れるから、海岸に近いところの森は多分海水に強い木なんだと思う。それで、この辺りからは多分高波のときでも海水が来ないから、きっと普通の森が広がっているんだと思うよ」
「そうなのですね」
アナは感心したようにそう
そういえばこういった知識は学園でも勉強しなかったし、あまり普及していないのかもしれないな。
さらにしばらく飛んでいると、広い川を見つけた。
「アナ、あの川の上流を確かめてみよう」
「ええ」
こうして俺たちは川のほうへと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます