side. エイミー(4)

期末試験、意外と難しくて結構苦戦したなって思ってたけど、これどうなってるのよ!


あの陰キャが満点なのはもう良いとしても、どうして悪役令嬢まで満点なの?


あんたゲームなら 2 位どころかもっと順位を落としてたじゃない。


しかも 3 位と 4 位のマーガレットとイザベラって、どっちも悪役令嬢の取り巻きじゃない!


しかもイザベラって B クラスの馬鹿よね? どうしてこんなやつがあたしの上にいるのよ!


ああ、もう! 最悪!


でもいいわ。今日はこれから楽しい断罪イベントだもの。


悪役令嬢がのさばっていられるのも今日までよ。


さあ、今日があんたの最後よ!


****


ああ、やっぱりカール様は素敵だわ。年間最優秀生徒に選ばれるだけでも凄いのに、皆を壇上に呼んで一人ずつお礼を言うなんて!


こんなこときっとカール様にしかできない事よね。


ゲームではさらっと流していたけど、やっぱりこのカール様は本当にステキ。ちょっと、惚れ直しちゃったわ。


しかも、あたしまで壇上に呼んでくれて「これからもずっと俺の側にいて欲しい」ですって。


ああ、もう嬉しすぎて死んじゃいそう。


「そしてもう一つ、ここで宣言しておくことがある」


あら? 何かしら? あたしへのプロポーズかしら?


「アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット、前へ出ろ」


ああっと。そうね。嬉しすぎてすっかり舞い上がっちゃってたけど、そうよね。これから楽しい楽しい悪役令嬢の断罪イベントだもんね。


カール様がそう言うと、悪役令嬢がいつもの能面みたいな表情で出てきたわ。


ぷぷ。ホント、無様よね。


「アナスタシア、今この時をもってお前との婚約を破棄する!」


ああぁ、カール様! ホントにカッコイイわ。スマホの画面で見ていたこのシーンのカール様もかっこよかったけど、リアルだと何倍も、ううん、何百倍もカッコイイわ。


「殿下、本気ですか?」


はぁ? ちょっと、あんたなんでそんなに悔しそうじゃないのよ! 最近はいつも能面みたいな表情だったけど、画面の中のあんたはもっと悔しそうにして怒ってたじゃない!


さっさと怒って無様にわめきなさいよ!


「ふん。相変わらず理解の悪い女だ。お前のような性根の腐った女ではなくこの心優しく癒しの力を持ったエイミーこそが俺の婚約者に相応しい」

「殿下、礼儀作法も貴族の何たるかも、国とは何かをも知らぬその女で良いのですね? 殿下はその女に国母が務まると本気でお考えなのですね?」


な、何よあんた! そんな突き刺すみたいな視線で見てきて! あんたどうなってるのよ!


でも、そんなあたしをカール様は優しく抱き寄せてくれたわ。


ふふん。そうよ。やっぱりあたしの優位は絶対なのよ!


「馬鹿なことを言うな! 彼女の優しさこそがこの国には必要なのだ。いちいち下らん理屈をコネ回すお前など必要ない。そもそも、俺たちはお前がエイミーに対して行ってきた数々の嫌がらせを知っている! お前のような性根の女こそ国母に相応しくない!」

「そうですか。ではその結果に対する責任は殿下がお取りになるのですね?」


ちょっと! 何よそのセリフ! あんたの言うセリフはそうじゃないでしょ!


もっと無様なはずでしょ?


ほら! さっさとわめき散らすのよ!


でもね。カール様はやっぱりちゃんと悪役令嬢をこき下ろしてくれたわ。


「何を言うのかと思えば、これだから頭でっかちのラムズレットは困る。そんなだからいつまでたってもラムズレットは麦しか作れぬ田舎者なのだ」

「殿下。私の事はどう言おうと構いません。ですがラムズレット公爵家に対する侮辱は看過できません。今の発言は取り消してください」

「何を言っているのだ? 事実を言ったまでだ」


あら? 怒ったの?


これはチャンスよね。悪役令嬢の実家なんてどうせ全員死刑なんだから、何言っても良いわよね?


「そ、そうですよぉ。そんなだから田舎者の家のアナスタシア様はカール様に愛想をつかされちゃうんですよぉ?」


でもそうしたら悪役令嬢はあたしをいつもの目で見て、それからため息までついたわ。


ちょっと、あんた何なのよ!


なに悪役令嬢のくせにあたしを見下してるのよ!


「エイミー、お前もラムズレット家を侮辱するつもりか?」

「カール様が言ってるんだから事実ですぅ」

「ではラムズレット家からブレイエス家に対して正式に抗議をさせてもらおう」

「実家の権力を使うなんて卑怯ですぅ」

「話にならんな。失礼させてもらう」


え? ちょっと何勝手に帰ろうとしてるのよ! あんたはここで怒って手袋を投げるんでしょ? そういうイベントじゃない!


でも、カール様はちゃんと分かってくれていたわ。


「待て! エイミーの言う通りだ。お前にも貴族としての誇りがあるなら親に泣きつく前に自分で解決しろ。それまではこの場を立ち去ることは許さん」

「殿下、一体何を仰っているのですか?」

「お前の手袋は何のためにある?」


そうよ! その通りよ! あんたはここで手袋を投げるのよ!


「少なくともこのようなことで軽々しく使うためではありません」


違うわよ! ここで馬鹿みたいに怒って投げるためにその手袋をしてるんでしょ!


「なるほど。ラムズレット公爵家の娘は家の誇りと名誉を賭けて戦う事すらできないのか。公爵閣下は子育ての才も無いようだ」


カール様は馬鹿にしたように鼻で笑ってて、なんか来てる偉そうな人達も笑ってるわ。


良いざまね。悪役令嬢。あんた完全な笑いものよ?


「殿下は決闘を申し込めと仰るのですか?」

「自分で考えろ。王太子である私に全て言われねば分からんのか? 相変わらず可愛げのない女だな」


あはは。悔しそうにしてる。そうよ。あんたは自分の意志であたしに決闘を申し込んで、無様に負けるのよ。


「かしこまりました」


そう言ってあいつは手袋をあたしに投げつけてきたわ。


「ひゃっ。あ、あの、これ……」


あとはシナリオ通りに演技するだけ。ほら、手袋返してあげるわよ?


「お前はどこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだ?」


あれ? あんたどうして怒んないのよ? ゲームでは怒って頬を叩いてたじゃない!


何そんな冷たい目であたしを見てるのよ! バグってんじゃないわよ!


「エイミー、これは侮辱されたと感じたあの女がお前に決闘を挑んできたということだ」

「えっ、そうなんですかぁ? あたし、戦いなんて……」

「まあ、いい。この決闘は俺がエイミーの代理人として受けよう」

「なっ? 殿下? 女性に決闘を命じておきながらその代理人をご自身でなさるなど、正気ですか?」


ふふ。セリフは違うけど、そうよ。その慌てた顔が見たかったのよ。


「何を言っているのだ? お前が勝手に決闘を申し込んだのだ。俺はエイミーを守りたいから代理人を受ける、それだけの話だ」

「……」


あら? 黙っちゃったわね。ざまぁ!


「俺も代理人をやらせてもらうぞ」

「オレもやらせてもらうぜ」

「私もやりましょう」

「当然、僕も戦うよ」


皆も! ありがとう! やっぱり逆ハールートは最高よね!


「お前はどうするのだ? 俺たち 5 人を相手に戦ってくれる代理人はいるのか?」


悪役令嬢はあたりを見渡しているわ。でも、この国の王太子のカール様と隣国の王子のクロード様が相手と分かって代理人をやる馬鹿はここにはいるはずもないわ。


「どうやら人望も無いようだな」


ああ、思わずにやけちゃうわ。でもまだよ。まだ早いわ。


元婚約者にボコボコにされるのよ! 悪役令嬢!


ざまぁ!


「俺が代理人をやりますよ」


……は?

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