後日談第10話 元町人Aは月の魔草の種を求める
俺たちは変態を連れて再び月の魔草が花を咲かせるという森へとやってきた。するとすぐに森の魔女が俺たちの前にやってきて、冷たい目で俺たちのことを一瞥するとアナに辛辣な言葉を投げかける。
「何をしにきたのですか? 力不足の聖女様」
きっと俺たちが再びやってきたことを不審に思い、排除しようと考えているのだろう。だが、引き下がるわけにはいかない。
「事情が変わりました。月の魔草の種をいただきたいのです。それを使えば、俺たちの目的も、メアリーちゃんを救うという目的も達成できるかもしれません」
「……いくら月の魔草の種を使ったとしても、聖女としての修練を怠った貴女ではメアリーを解放することはできないでしょう。私は誰かに頼ることなどしません。立ち去りなさい」
「ですが!」
「くどいです。立ち去りなさい。さもなくば……」
森の魔女の雰囲気が変わった。魔力が集まっているからだろう。すさまじい威圧感を放っている。
「落ち着いてください。今、その魔力を使うべきではありません」
変態が前に歩み出て森の魔女にそう声を掛けた。
「お前は……!」
森の魔女は変態を見て明らかに怒りの表情を浮かべた。
「メアリーちゃんを解放するためにやってきました。これでようやく、約束が果たせます」
「……そう、ですか。そこまで……」
よくは分からないが、森の魔女と変態の間には何か因縁があるのだろう。
「私たちが力を合わせればメアリーちゃんを解放することができるでしょう。そうすれば、全てを終わらせることができます」
「……そうですね。わかりました」
森の魔女はそう言って表情を和らげた。
「では、月の魔草の種を取りに行きましょう」
真剣な表情でそう言った森の魔女の後に続き、俺たちは森の奥へと向かうのだった。
◆◇◆
月の魔草が生えていた泉のほとりにやってきた俺たちはじっくりと夜の訪れを待っている。
ミリィちゃんはすでに眠っており、どういうわけかは知らないが段ボールが被せられている。これをやったのは変態なわけだが、この中にいれば安全らしい。
はっきりいって何を言っているのかさっぱりわからないが、自信満々にそう言っているのだからきっとそうなのだろう。
何しろこいつは腐っても光の精霊で、一応は元大賢者なのだ。きっと、何かの魔法がかかっているのだろう。
それにしてもこの世界で段ボールを見たのは初めてなわけだが、どうしてこいつはこれを知っているのだろうか?
いや、これは聞くだけ野暮なのかもしれない。
一方の月の魔草はというと、今にも咲きそうな蕾がある。今夜は新月であるため、これは開花が期待できるかもしれない。
「アレン。アナスタシア。戦闘の準備はいいですね?」
変態が俺たちにそう確認してきた。
「はい」
「ああ。銃はあるが……」
「はい。それが通じる相手であれば良いですね」
「そんな強い奴が来るのか?」
「わかりません」
「わからない?」
「そうです。ただ、月の魔草の種は力を持つ魔物が更なる力と寿命を得るために必要なものです。そのため、かなり強力な魔物がその種を狙ってやってくることでしょう。私が前に来たときは、グリフォンと戦うことになりました」
「グリフォン!?」
グリフォンといえば伝説級の魔物だ。乙女ゲームではハードモードにのみ出現する裏ボスで、カンストレベルまで育成してなんとか勝てるというレベルの恐ろしい魔物だ。
「ロー様は、グリフォンすらも退けたのですか?」
「いえ。当時の私は力がありませんでした。そのときの因縁で私は今この場にいるのです」
「……そうでしたか」
なるほど。やはり変態はこの森に因縁があるようだ。そして森の魔女と変態の先ほどの様子から察するに、きっとそのメアリーちゃんに関係することなのだろう。
ん? ということはもしかして、変態は五百年前に亡くなったメアリーちゃんに会ったことがあるのか!?
いや、まさかそんなはずは……。
そんなこと考えつつも月の魔草の周囲で待っていると日が沈み、森にはゆっくりと夜の帳が下りてきた。
それからしばらくして周囲が完全に暗くなるころ、今にも咲きそうだった蕾がゆっくりと綻び始める。
「アレン。蕾が!」
「うん。咲くね」
「綺麗……」
開花という神秘的な光景を目の当たりにしたアナはうっとりとした表情を浮かべている。
そうしてしばらく見守っていると、月の魔草の蕾は完全に開き、小さな一輪の花を咲かせた。
「あとは、この花を一晩守り抜くことです。様々な魔物がこの花の種を狙ってやってきます」
「グルルルル」
変態がそう警告を発したのと同時に、森の奥から唸り声が聞こえてきた。
「あれは?」
「グレートウルフです。この森ではよく見かける魔物で、月の魔草を狙う代表的な魔物でもあります」
俺の問いに森の魔女が簡潔に答えた。
なるほど。あれがグレートウルフか。だが、グレートウルフであればワイバーンを倒すよりも容易いはずだ。
「俺がやります」
俺はカラシを構えると茂みから顔を出したグレートウルフに狙いをつけ、そして引き金を引く。
ドォン。
発砲音が夜の森に響き渡るのだった。
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