後日談第11話 元町人Aは狼と戦う

2022/04/14 表記ゆれを統一しました(ブラックフェンリル→ダークフェンリル)

202/07/25 誤字を修正しました

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 俺の放った弾はグレートウルフの眉間を正確に撃ち抜いた。撃たれたグレートウルフはその場に力なく倒れる。


「このような力が……」


 それを見た森の魔女は驚愕の表情を浮かべている。


「この程度の相手なら一撃です。夜明けまで守りましょう」

「はい!」


 俺がそう言うと、アナがそう力強く返事をしてくれる。


 それからもグレートウルフは種を狙って続々とやってくるが、この程度の魔物であればどうということはない。


 遠いものはカラシで撃ち、少し近づいてきたものは魔女と変態が魔法で倒す。それを抜けてきたものはアナが剣で切り捨てる。


 そうしているうちに、気付けば周囲にはおびただしい数のグレートウルフの死体が転がっていた。


「……おかしいですね。グレートウルフがこれほどの執着を見せるとは」


 森の魔女は怪訝そうな表情でそう呟く。


 すると突然周りの空気が重苦しく変化した。


「な? これは?」

「ぐ、う、ま、まさか……?」


 森の魔女の表情に恐怖の色がにじんだ。周りの空気はどんどん重苦しくなっていき、黒い霧があたりに漂い始める。


「来ますよ!」


 変態が鋭い声でそう叫んだ。次の瞬間、目の前に黒い雷が落ちる!


 ドォォォォォォォン!


 すさまじい轟音に思わず顔を一瞬だけそむけてしまったが、すぐに落雷のあった場所を確認する。


 するとなんとそこには、人の背丈の何倍もあろうかという巨大な黒い狼がおり、こちらを睨んでいた。


 その黒い毛並みはまるで闇そのものであるかのように光をほとんど反射しておらず、らんらんと赤く輝く目はゾッとするほどに禍々しい。


「な? あ、あれは……!?」

「あれはおそらくダークフェンリルです」


 変態が間髪入れずにそう答えた。


「ダークフェンリル?」

「神獣たるフェンリルが理性を失い、闇に堕ちて魔獣となった姿です」

「神獣?」

「はい。神獣とは、特別に神の加護を受けた獣のことです。ダークフェンリルは愛する者を人間の手によって失い、その怒りと悲しみで魔獣となったと伝えられています」


 俺の脳裏をジェローム君とメリッサちゃんの姿が、続いて乙女ゲームで賢者の塔のボスとして出てきたスカイドラゴンの姿がよぎった。


「ダークフェンリルにもはや理性はなく、出会った人間を全て食い殺す伝えられています。倒さなければこちらがやられますよ!」

「ああ!」


 あれだけ大きな相手ならサイガのほうがいいだろう。


 そう考えた俺はサイガに持ち替え、スラッグ弾をセットする。


「ウォォォォォォォォォォン!!」


 ダークフェンリルが突如、遠吠えのような唸り声を上げた。


「っ!?」


 それを聞いた瞬間、体がぐっと押さえつけられたかのように重くなる。


「こ、これは……」

「ア、アレン……」


 どうやらアナも同じことを感じているようだ。


「アナスタシア、貴女の魔法であれば咆哮ロアの効果を打ち消せるはずです」


 咆哮!?


 ジェローム君の放っていたあれをこいつも使うのか。


 味方が使う分には心強いが、敵として相対するとなるとこれは厄介だ。


「くっ、ロー様……はい!」


 アナはなんとか精神を集中させ、魔法を発動した。


「聖氷鎮静」


 すると俺たちの体は一瞬にして氷に包まれ、そしてすぐに氷は砕け散った。


 軽い! 体が軽いぞ!


「ありがとう! アナ!」

「ええ。それよりもあの魔獣をどうにかしないと」

「よし!」


 俺はすぐさま錬成で煙幕を作り出すと、【隠密】を使って隠れた。


 これで奴からは見えなくなったはずだ。あとは確実に急所を狙えるように近づいて、サイガでスラッグ弾を撃ち込んでやればいい。


 そう考え、ダークフェンリルの側面に回り込もうと数歩進んだところで俺は異変に気が付いた。


 ダークフェンリルが、俺の姿を目で追っている!?


 そう気づいた瞬間、ダークフェンリルの体から黒い電撃が迸る!


 寸分たがわず俺を目掛けて飛んできたそれを俺はなんとか地面に転がって避けた。


「う、ぐ、なんで……」


 なんとか避けられたものの、左の肩口あたりをすこしかすってしまった。


 ジンジンと痛みが伝わってくる。


「アレン!?」


 アナが慌てて駆け寄ってきた。


「くそ、どうして【隠密】が!?」

「それだけこのダークフェンリルの力が強いということなのでしょう。アレン、生半可なやり方では勝てませんよ」

「分かってる。なあ、なんとかできないのか?」


 変態にそう尋ねるが、変態の答えが返ってくるよりも早くダークフェンリルが動いた。


 すさまじい数の黒い電撃を俺たちに向けて飛ばしてきたのだ。


「うおっ」

「くっ」

「これは……」


 あまりの数と威力に俺たちは防戦一方となってしまった。


 なんとかそれらを躱し、あるいは魔法で相殺するものの、とてもではないが反撃する余裕などない。


 だが、このままじゃジリ貧だ。


 くそっ! なんとかしなければ!

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