第11話 町人Aは恋のキューピッドになる(前編)

「あの、神様。それで俺は結局何をすればいいんでしょう?」

「それはね、このジェローム君がお嫁さんをゲットする手助けをしてほしいんだ」

「はい?」

「聞こえなかったかい? このジェローム君がお嫁さんをゲットするのを手助けしてほしいんだ」


どうやら聞き間違いではなかったらしい。なんで神様がワイバーンロードの婚活を手伝ってるんだ?


「それはね、このジェローム君と彼の想いトカゲのメリッサちゃんが私の加護を受けるとスカイドラゴンになれる素質を持っているからなんだ」

「あの、仰っている意味が理解できません」

「うん? ああ、そうか。アレン君はあんまりそういったことは詳しくないんだね。うん、説明すると長いし、まあいいや。このジェローム君とメリッサちゃんがいい感じになったら君に私の加護を授けてあげよう。どうだい?」


どうしようか……


とりあえず、取引としては悪くないかもしれない。


「わかりました。やってみます」

「いやあ、君ならそう言ってくれると思っていたよ。ちょうど面倒くさくなったから風神の書を残して帰ろうかと思っていたところだったんだ。でも丁度いい暇つぶしになるね」


ん? なんか今聞き捨てならないことを言っていたような


「ア、ア、ア、アレンしゃがひっ」


ジェローム君が喋ろうとして舌を噛んだ。こいつ、とんでもないポンコツだ。


「わかった。とりあえず手伝ってやるから。で、お相手のメリッサちゃんはどんな娘なんだ?」

「……」


ジェローム君はもじもじしている。


ええい、シャキッとしろ。男だろ!


「ふむ。私が見せてあげよう」


神様がそう言うと目の前にスクリーンが現れた。そこには空を優雅に飛ぶ一匹の真っ白なワイバーンロードの姿がある。尻尾には見たことのあるリボンが巻かれている。


ああ、うん、そういうことか。


これ、俺が来るのが早すぎたパターンだ。きっとこのまま俺が来なければ、面倒になった風の神様は『風神の書』をこの神殿に残して神界的な場所へ帰るんだ。


でもジェローム君は頑張ってメリッサちゃんを射止めて夫婦になる。で、折角夫婦になって子供も産まれてこれから幸せの絶頂、というところにエイミーと攻略対象達がやってきてそれを蹂躙した、と。


うん、最悪じゃねぇか。


「おや? アレン君どうして未来の事を事実のように考えているのかな? まあ、それは良しとして、アレン君はもう手伝うと約束したんだから僕が居なくなるのを待つなんてダメだよ? もし手伝わないで逃げたりなんかしたら神罰ですぐに地獄行きだから安心してね」

「あの、全然安心できないんですが、その点についてはいかがでしょうか?」

「うん、僕は安心だから問題ないかな」





さあ、切り替えていこう。


「よし、じゃあ作戦会議を始めましょう。偉大なる兵法家はこう言いました。彼を知り己を知れば百戦あやうからず。まずはメリッサさんの事を知るところから始めましょう。ジェローム君の知っていることを教えて下さい」


ジェローム君はもじもじしている。


こいつ、殴りたい。なんかイライラする。


「黙ってちゃ何も始まらねぇ! いいから早く吐け!」

「ひっ、ひぃぃぃ、言います。言いますから怒らないで」

「よし、じゃあ知っていること全部話せ」

「は、はい。メリッサさんは白いワイバーンの女の子で、尻尾に結んだオシャレなリボンがトレードマークです。とっても美人です」

「それで? 趣味とかは?」


ジェローム君は困った顔をしている。


「話したことは?」


ジェローム君はやっぱり困った顔をしている。


「それ、完全に他人じゃね? っていうか、ジェローム君ただのストーカーなんじゃ?」


ジェローム君はショックを受けた顔をしている。


「よし、じゃあまずは挨拶して、お友達になってもらうところから始めるんだ」


ジェローム君はもじもじしている。


「い、い、な?」

「は、はひぃぃぃ」


****


俺たちはメリッサちゃんが羽を休めているところの近くまで神様に連れていってもらった。


「いいか? 最初の挨拶は『こんにちは。ジェロームといいます。おしゃれで素敵なリボンですね。隣に座ってもいいですか?』といって声をかけるんだ。それで後は適当に話して趣味とか好きな食べ物とか聞き出して、それを褒めて一緒に行く約束を取り付けるんだ。いいな? 行ってこい」


ジェローム君が巨体を空に翻してメリッサちゃんのところへ飛んでいく。


俺は神様と一緒にメリッサちゃんの様子を遠巻きに見守る。


ジェローム君がメリッサちゃんの側に降り立った。そしてずしずしと歩いて近づいていく。


メリッサちゃん首を上げ、ぎろりとジェローム君を確認する。


「誰あんた? なんか用?」

「こ、こ、こ、こ……」


メリッサちゃんはゴミを見るような目つきでジェローム君に一瞥をくれると、そのまま飛び去ってしまった。


****


「よし、じゃあ次の作戦だ。あがって上手く喋れないなら贈り物をするんだ。ワイバーンの女の子が喜ぶ贈り物はなんだ?」

「え、え、え、えと、えと、お肉?」

「よし、じゃあそれでいこう。用意はできるか?」

「う、う、う、うん」


ジェローム君がどこかに飛んで行った。


その間俺は神様と一緒にメリッサちゃんの様子を遠巻きに見守っている。


そしてしばらくすると、顔中を血まみれにしたジェローム君が巨大なワームを口に咥えて飛んできた。


メリッサちゃんはジェローム君を見るなり、キャアァァァ、と悲鳴を上げて飛び去ってしまった。


****


「よし、喋るのも贈り物もダメなら、オシャレで何とかするんだ。ワイバーンの女の子に受けのいいファッションはなんだ?」

「え、え、え、えと、えと、花の冠?」

「ほんとかなぁ。まあ、いいや。それでいこう。用意はできるか?」

「う、う、う、うん」


ジェローム君がどこかに飛んで行った。


その間俺は神様と一緒にメリッサちゃんの様子を遠巻きに見守っている。


しばらくすると、何やら巨大な木と草の塊が飛んでくる。


その妙な物体がメリッサちゃんの側に降り立つと、メリッサちゃんは、ぎゃぁぁぁ、と悲鳴を上げて飛び去ってしまった。

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