第50話 町人Aは通行人を助ける
さて、公爵様に随分と不安を煽られたものの、何の問題もなく前期の期末試験を終え、その結果が貼り出された。
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1 位 アナスタシア・クライネル・フォン・ラムズレット(500)
1 位 マーガレット・フォン・アルトムント(500)
1 位 アレン(500)
4 位 イザベラ・フォン・リュインベルグ(489)
5 位 マルクス・フォン・バインツ(457)
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9 位 エイミー・フォン・ブレイエス(421)
10 位 オスカー・フォン・ウィムレット(417)
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32 位 カールハインツ・バルティーユ・フォン・セントラーレン(392)
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38 位 レオナルド・フォン・ジュークス(223)
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やったぜ。アナだけじゃなくてマーガレットも満点、イザベラも満点まであと少しだ。
そして頭良い設定だったはずのエイミーが何故かどんどん落ちぶれていっている。そもそも日本の中学校の内容にギリギリ届いたかどうかといったレベルの内容な気がするんだが、前世の記憶があるはずなのにどうしてこうなるんだ?
まあ、どうでもいいか。最近は全く実害がないし。
釘を刺されているのかエイミーも大人しいし、それに王太子達はアナにまるで歯が立たない状態になっているのだ。
授業での魔術も剣術も圧倒的な大差をつけて勝ってしまうため、最近は全くちょっかいを出してこなくなった。
怠けたのか外に出してもらえなかったのかは分からないが、きっと冬休みの間のレベル上げをしていなかったのだろう。
ともあれ、こっちの邪魔をしないなら、わざわざ俺たちの方からどうでもいい奴らに何かする必要など全くない。
そんな事よりも継承権争いと外国との関係のほうが気になる。
争いは同じレベルでしか起こらない。そして愛の反対は無関心。
これらの言葉をこうまで実感するとは思わなかった。
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さて、今日はアナと冒険者ギルドに行く約束になっている。
あ、先に言っておくが、別にアナを師匠に紹介するとか、そんな話じゃないぞ。そんなことをしたら俺の首が物理的に飛ぶ。
え? そう言う意味じゃないならいいだろうって? ま、まあそうなんだが……。
ともかく、俺たち学園の生徒は夏休みに自由研究をする必要があるのだ。
そしてアナが冒険者がこの国で果たす役割について考えたいと言い出したので、とりあえずテーマになるかどうかの検討も含めてギルドを訪れてみることにしたのだ。
ちゃんと事前にギルドにも連絡してあるので問題ないはずだ。
ちなみにマーガレットとイザベラとも一緒に自由研究をする予定だが、二人は二人で興味のあるテーマがあるらしいので、今日は図書館で別の調べ物をしてもらい、後日集まってテーマを決めることになっている。
さて、私服に着替えた俺たちは騒ぎになるのを避けるために公爵家の馬車は使わずに徒歩でギルドへと向かう。アナは目立ちすぎるので少し暑いだろうがフード付きのマントを被って貰った。
町の大通り、そして角を曲がって大通りから一本入った道を歩いていく。すると、そこから見える路地に先ほどどうでもいいと思ったエイミーたちの姿を見かけてしまった。
「あれ? エイミー様? それに王太子殿下たちも? 一体あんなところで何を?」
よく見ると壁を背に粗末な麻のローブを被った小柄な人を取り囲んでいるように見える。
ええと? 状況がよく分からないが一体どういうことだ?
顔を見合わせた俺たちは頷き合うとそっと彼らに近づく。
随分と線が細そうだ。男性ならあそこまで細くないだろうから、取り囲まれているのはきっと女性だろう。
「だから、魔物はあたし達が退治してあげるって言ってるのよ。だから早く里に案内しなさい」
「俺たちは学年トップレベルの実力者だ。魔物に襲われて困っている人を見捨てるなどできん」
エイミーに続いてレオナルドがそう言う。だが、俺は特殊だから置いておくにしても学年トップの実力者はもうアナで、大分離されてお前らなんじゃないのか?
しかも、学年トップレベルぐらいでどうしてそんなに偉そうなんだ?
「ひっ。だから魔物なんていないって――」
完全に怯えた様子のその女性が震えながらそう反論する。
「次期国王である俺に嘘をつくとはな」
「う、嘘なんて」
ええと? とりあえず助けたほうが良いのか? なんか声に聞き覚えがある気がするし。
そしてそれと対照的なのはマルクスとオスカーで、一緒にはいるものの加担はしていない。多少は思うところがあるのだろうか?
とはいえ、止めない時点で同罪な気はするが。
俺はアナをちらりと見ると、アナは大きく頷いたので俺は声をかける。
「おい。お前らそんなところで何やってるんだ?」
するとエイミーは鬼のような形相で俺を睨み付けてきた。
「何よ! あんたまたあたしの邪魔するっていうの? あたしが祝福を受けるのを妨害しようったってそうはいかないわよ?」
「ええと? 何の話だ?」
何を言っているのか全く意味が分からない。
しかし次の瞬間、その小柄な女性が俺たちの方に向かってダッシュしてきた。
「ア、アレンー、助けてっ!」
そして凄まじい勢いで俺の腹を目掛けてタックルしてきた。
「おわっ!? な、何だ?」
後ろにアナがいるので避けられなかった俺は慌てて受け止める。
「ん? その声はもしかしてシェリルラルラさん?」
「そうよ! お願い、変な奴にいきなり脅されたの! 助けて! きっとお金を奪う気だわ!」
それを聞いたアナの周囲の空気が冷たくなったのを感じる。
ヤバい! 怒ってる!
「なるほど。殿下が市井で強盗を働くなど、いったいどういうおつもりですか?」
「な、何を馬鹿なことを言っているのだ! 俺たちはここに魔物に襲われて助けを求める者が現れるとエイミーの受けた神の予言を聞いてここに来たのだ。そして予言の通りの時間に予言の通りの姿のこの女が現れたのだ」
ん? 予言? 祝福? シェリルラルラさんが?
あ、そうか! これはエルフの里の救援を依頼する強制イベントか。
「ええと、シェリルラルラさん。なんかあんなこと言ってますけど?」
「あたしたちは魔物になんか襲われていない! アレンに仕事の依頼をしに来たのよ!」
俺の背中に隠れるように引っ付いたシェリルラルラさんがそう言った。
「ええと、だそうなのでお引き取り願えますかね?」
しかし、俺の事を睨み付けてきてその言葉には従ってもらえない。
「殿下? 殿下が町で強盗など、本当によろしいのですか?」
アナが久しぶりに見た冷たい目で王太子にそう言うと、王太子は観念したような表情を浮かべた。
「くっ。仕方ない。帰るぞ!」
「えっ? ちょっと? カール様ぁ」
そうしてあいつらは俺たちを睨み付けながら、あるいは恥ずかしそうにしながら立ち去ったのだった。
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