第96話 町人Aは決着をつける(前編)
いきなり現れたジェローム君にルールデンの町はパニックに陥った。ジェローム君もわざと
ちなみにこの竜の咆哮というのは、それを浴びると弱いものは恐怖に支配されて動けなくなったり、動きが鈍ったりするという竜種特有の能力だ。
大抵の場合は最低でもレベルが 25 くらいあるか、よほど強い心がないとこの咆哮に耐えて動くことは難しいとされている。
だが一部の兵士たちはその咆哮を浴びてもなお攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃もジェローム君の硬い鱗に弾かれ傷一つつけることができない。
そんな兵士たちをアナがジェローム君の上から聖氷覚醒で洗脳を解除していく。
そうしてついに俺たちはお城の正面に強行着陸した。
俺たちを迎撃するために出てきていた兵士たちは既に大半がジェローム君の咆哮を受けて倒れている。
「こ、ここで僕はみんなを気絶させてればいいんだよね?」
「ああ、頼むぞ」
「うん。ど、泥船に乗ったつもりでいてよね」
「あ、ああ。そうだな」
俺とアナは地面に降り立つと門の方へと駆け出そうしたその時だった。よく見知った人が俺に声をかけてきた。
「おっと、アレン坊、おいたはいけねぇぜ? この世界は慈愛の聖女様によって導かれるんだ。しかもそんな女に聖女様みてぇな格好をさせるなんて、慈愛の聖女様に対する冒涜だぞ?」
「師匠!」
なんてことだ、師匠まであの女の毒牙にかかっているなんて!
などと言って動揺するなどという事はない。
こんなものは当然想定の範囲内だ。
俺は懐から決闘の時の非殺傷弾が装填された特製の銃を取り出すと速射した。
「なっ? がっ」
師匠がそのまま膝をつき、そこにアナが聖氷覚醒を撃ち込む。すると師匠の頭が氷に包まれ、そしてすぐに割れた。
「あ、あれ? 俺はなんでこんなところにいるんだ?」
正気に戻った師匠がキョロキョロと辺りを見回している。
「師匠」
「ん? アレン坊じゃねぇか。なんでこんなところに? それに一体何がどうなってんだ?」
俺に気付いた師匠は不思議そうに尋ねてきた。それを見たアナが師匠に声をかける。
「あなたがアレンの剣の師か」
「おい、アレン坊。この聖女様っぽい格好した美人の姉ちゃんは誰だ?」
「師匠。俺の婚約者でラムズレット王国の第一王女アナスタシア様です」
「げっ。ラムズレットのお姫様? し、失礼しましたっ」
師匠は慌ててアナに跪く。
「いや、構わん。それよりも、エイミーという女の場所を知らないか?」
「エイミー? あ、ああ、あの慈愛の聖女様もどきだな。ん? あれ? んん? あー、そういえば今までなんであんな女の事を聖女だなんて思っていたんだ?」
どうやらこれまでの事を少しずつ思い出してきたらしい師匠が首をひねっている。
「それがあの女の力です。それより、城のどこにいるか知りませんか?」
「あー、俺はあんまり出入りしてねぇけど、最近は玉座に座っているそうだぜ?」
「あの女、まだ国王陛下は存命だろうに……まあいい。いくぞ、アレン。あの女を止める!」
「そうだね。それじゃあ師匠、失礼します。あ、それと早く逃げてくださいよ? 俺も母さんも今はヴィーヒェンに住んでいるからそっちに来てくれれば助けられますから」
「あ? ああ。気をつけろよ! アレン坊!」
「はい!」
俺たちはそうして王城内に入るとそこで煙幕を発生させて一度姿を隠す。そしてアナとしっかり手を繋いで【隠密】を発動させた。
これも今回のために色々と調べて発見したことなのだが、【隠密】は使用者に密着していれば人だろうが物だろうが隠すことができる。
これについては今まで【隠密】を使いまくっていたおかげでスキルがレベルアップしてできるようになったのか、それとも最初からできたのかは定かではないがとにかくできることが分かったのだ。
こうして俺はアナの道案内で王城の中を玉座の間の前まであっさりと辿りついた。そして伝令兵がやってくるのを待つとその後ろにくっついて玉座の間に侵入する。
するとそこにはド派手なドレスを着て玉座に堂々と座るエイミーと、その左右を固める王太子とマルクスの姿があった。
漫画やゲームではここで「お前の悪事もここまでだ!」みたいな会話からエイミーとの口論が始まるのだろう。
だが、俺はここで姿を現してベラベラ喋ってリスクを増やすような馬鹿な真似はしない。
そもそも、エイミーに対してはアナに対してされた事に対する憎しみなど通り越してもはやどうでもいいのだ。
こうやってここに来たのだって単に放っておいたらアナが、そして俺たちが守るべき人たちが危険な目に遭うからで、それと世界が滅茶苦茶になるから殺しに来ただけだ。
そう、本当にただそれだけだなのだ。
だから、一撃で終わらせる。
「さあ、さよならだ」
俺はサイガを構えるとエイミーの体に銃口を向け、そして引き金を引いた。
ドォン
「え?」
「ぐっ、がはっ」
何と反応できていなかったはずなのにマルクスがエイミーと俺たちの間に割り込み、その身を挺してエイミーを庇っている。
「エイ、ミー、よかった、です……お……み……エイ……ミ……ま……も……あ……し……」
そう言葉を残し、マルクスの血まみれの体からゆっくりと力が抜けていったのだった。
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