side. エイミー(6)

「ば、馬鹿な……!」


ちょっと! カール様! 何やってるのよ!


早く反撃してあいつを、あいつを殺してよ!


「え、ええい。怪しげな魔道具の力に頼るな! 卑怯なことをせずに正々堂々と剣と魔法の力で戦え」


そうよ! その通りよ! だからこの決闘は無効よ!


「ぷっ。殿下、何を言っているんですか。最初に合意したルールはなんでもありですよ? それに俺が卑怯なら 5 人で 1 人を倒そうとした殿下たちは卑怯じゃないんですか?」


うるさい! そっちが挑んできたんじゃないの!


「さらに言えば、王太子という権力のある立場にいながらアナスタシア様を 5 人で、いや 6 人で取り囲んで無理矢理冤罪を認めさせようとしていたのはどうなんですか? アナスタシア様は仮にも殿下の婚約者で、しかも身分差もあって殿下には逆らえない。これを卑怯と言わずしてなんて言えば良いんですかね?」


ああ、うるさいうるさい! 何なのよコイツ!


「それは、あいつが……」


そ、そうよ! あいつがいけないのよ。悪役令嬢なんだから、あいつが悪いって決まってるのよ!


その後もグチグチと男らしくないことを言っては嫌味を言ってきたわ。


ホント、何なのよ! あいつ!


「ぐっ。黙れ! 平民の分際でっ! 黙れっ!」


そうよ! カール様の命令なんだから黙りなさいよ!


「へえ。言い負かされたら今度は身分を盾に取って命令ですか? その前にご自分が何て言ったか覚えてます?」


ああ、もう! ちゃんとカール様の命令聞きなさいよ! 王太子なのよ! 平民のアンタは逆らっちゃいけないのよ!


「大体ね。そんなに平民がいいならエイミー様と駆け落ちすればいいじゃないですか。そうしたら平民として生きていけますよ?」


そんなのダメに決まってるじゃない! 何言ってるのよ!


ちゃんとシナリオ通り、あたしは聖女様で王妃様になって 5 人と一緒に暮らすのよ!


「そんなことすらもできないなら、殿下の相手はアナスタシア様ですよ」


まるで諭すかのような口調であいつはそう言ったわ。


ふざけんじゃないわよ! なんで悪役令嬢なんかにあたしのカール様を!


「う、うるさい! 黙れ! お前になんか!」


そう言ってカール様が極大炎魔法を使い始めたわ!


すごい! これは最終決戦のあたりでようやく覚えるはずなのに!


そうよ! これがゲームの強制力よ! 絶対シナリオの通りに進む運命なのよ!


ざまあないわね、クソ陰キャ!


何だか卑怯な手段で 4 人を倒したみたいだけど、最後はカール様に負ける運命なのよ!


「エイミーを失うくらいなら、俺は! 俺は!」


ああ、嬉しい! カール様は本当にあたしを愛してくれているわ。


その愛の力でシナリオにはいなかったはずのこの中ボスを倒してくれるのね!


そう思ったのに!


そのはずなのに!


そうならなきゃいけないのに!


カール様の魔法が……暴走しちゃったの……。


カール様を中心にすごく大きな炎が巻き上がって。


それからその炎がどんどんと広がっていって……。


ああ、どうして……


あたしのカール様が……そんな……


あたしは頭の中が真っ白になって、それで目の前が滲んできて……


「殿下!」


そうしたら悪役令嬢の声が聞こえたわ。


顔を上げて見てみると、あいつが何かしようとしているわ。


そうよね。カール様がいないとこの国は助からないもの。


さっさとあんたの氷魔法で助けなさいよ!


でもあのクソ陰キャはそれを止めやがったの。


どういうことよ! 殺すのは無しって言ったじゃない!


嘘吐き!


でも、あの陰キャは風魔法をいつの間にか使ってカール様の炎をあっという間に全て吹き飛ばしてしまったの。


ど、どうなってるのよ? 一体何なのよ?


それからカール様の首にあいつが剣を突きつけて。


だめよ! やめて!


あんたは負けなきゃいけないの!


だけどあいつはそのまま審判をじっと見つめて。


それで、


それで……。


「カールハインツ殿下、戦闘不能。よってアレンの勝利」


あああ……終わったわ。


どうして?


どうしてこうなったの?


そんな風に絶望してるあたしに、あいつはニヤッてまた笑ったわ。


え? もしかしてコイツ、あたしの事嫌いだったの?


あたし、この世界のヒロインなのに?


そうしたら何故か突然膝から力が抜けて、あたしは地面にへたり込んでしまったわ。


どうして? どうして?


ねぇ、あたしはどこで選択肢を間違えたの?

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