第63話 町人Aは学徒出陣に志願する
「私が騎士団長のオットー・フォン・ジュークスだ。騎士団はエスト帝国の一方的で違法で無道な侵略から祖国を守る勇敢な若者を探している! 祖国のために立ち上がろうと考える諸君は手を挙げてくれ!」
俺は真っ先に手を挙げた。アナの事は気がかりだし今すぐに探しに行きたい気持ちでいっぱいだが、一切の手掛かりが無い以上は闇雲に探したって時間の無駄だ。ならば、俺は今俺にできることをやるしかない。
この事は公爵様と相談済みだ。それに、まずは王都の壊滅を防ぐために前線に出るというのも悪い選択肢ではないはずだ。
それに、もしゲームの通りにエスト帝国に連れて行かれたとするならば、エスト帝国がアナを兵器として利用しようとしているなら!
絶対に俺が止めなければならない!
「なるほど。君が特待生のアレン君か。他にはいないかね?」
壇上から飛ばされるその大声に生徒たちはピクリと身を縮める。そして、何とも情けない声が聞こえてくる。
「平民が行くのに貴族の俺たちがいかないとかヤバくないか?」
「でもほら、王太子も立候補してないし、いいんじゃないか?」
「たしかに」
「わ、私は戦いなんてできないし……」
そんな会話が聞こえてくる中ちらほらと挙手する者が現れ、最終的に全生徒の三分の一くらいが立候補した。だが、王太子たちは結局最後まで立候補しなかった。
何のための王族なのか。何のための貴族なのか。
そしてレオナルド、お前は……。
****
さて、それから志願した俺たちはそのまま王宮へと連れて行かれると軍服を支給された。俺たちは見習い扱いだそうで、基本的に後方で支援物資の運搬や事務処理、救護所の手伝いなどをやらされるそうだ。
だが、俺はそれでは困るのだ。
支給された軍服に着替えた俺たちは国王様の御前へとやってきた。
「良く来たな。勇敢な学生たちよ。悪逆非道のエスト帝国の野望を打ち砕くべく……」
国王様の長ったらしくありがたい話を黙って跪いて聞き流す。
「諸君の健闘を祈る」
「「「はっ」」」
皆がありがたい話に感動した、かどうかは分からないが俺は挙手をして発言の機会を求める。
このまま指揮命令系統に組み込まれるわけにはいかない。どうしても要求を一つ、呑ませる必要があるのだ。
「うむ? まあよい。発言を許そう」
「ありがとうございます、陛下。俺はアレン、ラムズレット公爵家の庇護下にある冒険者です」
「む? ああ、お前があの時あやつが言っていた平民か。それでアレンとやら、あやつは今回協力しないと聞いておったがそれは国難を前に団結するというラムズレット公爵からの意向か?」
「いえ。ですが公爵様は国の事をお考えです。南の領地に引き上げるという事にもセントラーレン王国と王家を支える意思があっての事でございます」
「左様か。ではお前は何が言いたいのだ?」
「はい。重ねてのお願いにはなりますが、ラムズレット公爵家のご令嬢アナスタシア様を一秒でも早く保護頂き、そして今回の玉璽の盗用、もしくは偽造に関わった者に正しい処罰をしていただきたく存じます」
「なんだと?」
国王様の顔に怒りの形相が浮かぶ。
なるほど。一応、自覚はありってことか。
その様子を見て俺は確信した。やはり諸悪の根源はこいつだ、と。
それにこんな程度の事で簡単に怒って顔に出るという事はやはりそういうことだ。
公爵様やセバスチャンさんの話を聞いて何となくは思っていたが、かなりの暗愚ということで間違いなさそうだ。
どうしてなのかは分からないが、あれだけのことをやらかした王太子をこいつが徹底的に庇って甘やかしているのだろう。
だが、そんなだからいつまでたってもあの馬鹿は馬鹿のままで、周りもそれで良いのだと思って更に馬鹿になっていくのだ。
「失礼いたしました。ただ、俺は今の発言の責任を取り最前線で一人、戦って参りたいと思います。どうぞそのようにご命令ください」
「何?」
国王の顔に困惑の表情が浮かぶ。
それはそうだろう。いきなり喧嘩を売ってきたかと思ったらそいつが自殺を志願したのだ。
「ただ、俺が見事に帝国軍を打ち破りましたら十分な報酬を頂きたい」
すると、国王はニヤリと笑うと宣言した。
「ああ、いいだろう。ラムズレットのアレンよ。最前線に一人で赴き、自由に帝国兵どもを蹴散らしてこい。それまではこの王都に戻ることは許さん。だが、もしそなたの働きで我がセントラーレン王国に勝利をもたらした暁には、褒美はそなたの思いのままだ。金、宝、爵位、女、望むものをくれてやろう」
やはり公爵様から事前に聞いていた通りだ。こういったやり方をすればこいつはこんな馬鹿なことを平気で言ってくれる。
「はっ。ありがたき幸せにございます。それでは、どちらの戦場で勝利をもたらせばよろしいでしょうか?」
「要塞都市カルダチアを攻略し、ブルゼーニ地方を奪還するがよい。それが成れば我が国の勝利だ」
「ははっ。拝命いたしました」
俺はそうして礼を述べると、国王の直筆によりその場で作成され押印された命令書を手にざわつく謁見の間を後にした。
馬鹿な奴、ラムズレット公爵の飼い犬が、などと言っている声が聞こえてくるが、少なくとも今の件は公爵様に相談済みだ。これで公爵様が不利になるようなことは無いはずだ。
それに、この馬鹿で愚かな国王から俺にとって百点満点の回答を引き出せたのだからこれで十分だ。
アナの件だけは想定外だったが、俺は戦争になることを見越して準備をしてきたのだ。
エスト帝国にはその成果を存分に見せつけてやることにしよう。
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