第6話彼氏の事情6

「あ」


 っと言う間に放課後。


 いつの時代でも努力と云う奴は忌避されるべきもので。


 授業は眠気を誘うものだ。


 一応午後の授業は起きてたけど退屈冗長には違いない。


 ともあれデータウィンドウを閉じて帰り支度をする。


 とはいえ量子変換技術が発達した今では荷物はデータ化できるし、そもそもイメージウィンドウの送受信によって授業を行うため教科書の類もないのだけど。


 じゃあ何故教育機関があるかと言えばこれは単純。


 一つは強制されない限り人は勉強をしないこと。


 一つは他者とのコミュニケーションの場を設けること。


 それらの環境が必要であるからだ。


 後者についてはしがらみとも言える。


 何故かって?


「雉ちゃん」


 秋子がいるからだ。


「場所は何処?」


「体育館の裏……」


 ベタだ。


 いいんだけどさ。


「じゃ、いこっか」


「うん」


 コックリ頷いて、


「えへへ」


 とはにかむ秋子。


 こういうところは可愛いんだけどね。


 つくづく残念だ。


 秋子のせいじゃないんだけど。


 僕はネクタイを緩めて歩き出す。


 それに続く秋子。


 僕の隣の信濃さんがジトッと僕を見ていたけど、


「…………」


 気づかないふり。


 それから昇降口に向かい外履きに履き替えて体育館裏へ。


 そこには一人の少年がいた。


 というか懸想文を出すあたりで同じ学校の生徒に違いなく、そうである以上少年であることは必然なのだけど。


 少年は秋子を見て顔を輝かせ、僕を見て口をへの字に歪めた。


 曰く、


「何で土井までいるの?」


 だろう。


 少なくとも表情を見るに。


 しかしてそんな空気を読めはすれど一切気にせず、


「お待たせしました」


 快活に秋子は言った。


 こういうところは尊敬に値する。


「それで何の用でしょう?」


 これはある意味で嫌味だ。


「とっとと要件を済ませたい」


 そんな意思が見て取れる。


 いいんだけどさ。


「我を思ふ、人を思はぬ、むくひにや、わが思ふ人の、我を思はぬ」


 そんな和歌がある。


 皮肉……。


 が、その通りには違いないのだ。


 少年が告白する。


「紺青秋子さん……」


「はい」


「僕と付き合ってください」


「ごめんなさい」


 即答。


 だろうとは思ったけどね。


「ええと」


 困惑したように秋子は僕を見る。


 それから僕の腕に抱き付く。


 南無三。


「私は雉ちゃんが好きなので」


 そんな告白。


 別に僕は秋子のことを好きじゃないんだけど……。


 言っても詮方無しか。


「……っ!」


 少年が僕を睨む。


 気持ちは共有できないけど言いたいことはわかる。


「なんで貴様なんかに……!」


 といったところだろう。


 知ったこっちゃないんだけど。


 さて、


「じゃ行こっか秋子」


「うん。雉ちゃん」


 僕の腕に抱き付いて秋子は少年には向けていない輝かしい笑顔を僕に向けた。


「別に一刀両断せねども付き合ってみればいいのに」


 そんなことを思ったけど口にはしない。


 人の機嫌を損ねるのは誰も得しない。


 ましてそれが秋子ともなれば。


 そんなわけで恋敗れた少年を放っておいて僕と秋子は仲睦まじく下校した。


「えへへ。雉ちゃん」


「なに?」


「好きだよ?」


「僕はそうでもないかなぁ」


「だよね」


 こんな会話も今更だ。


「それよりも胸が当たってるんだけど」


 僕の腕に抱き付く必然、秋子の豊満な胸が押し付けられている。


「当ててるんだよ?」


「さいですか~」


「雉ちゃん以外にはしないよ?」


「さいですか~」


「愛してるよ?」


「さいですか~」

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