第12話彼女の事情5


 そして昼の十二時。


 僕は秋子の作ってくれた昼食を秋子と一緒に食べて腹をくちくするのだった。


 こればっかりは必要事項だ。


 電子世界ではモノを食べても栄養を摂取できないからね。


 それから僕と秋子は僕の寝室のベッドに寝転んだ。


 別にニャンニャンするわけじゃない。


 僕は例外だけど普通の人間の場合は電子世界にログインすると肉体は能力を失う。


 意識の操作がアバターに移行するのだ。


 であるから基本的に電子世界にログインする際は、


「玄関や窓の施錠」


「火の用心」


「体の安置」


 の三つを徹底せねばならない。


 まぁ土井さん家の場合は秋子が全てやってくれるんだけどね。


 ちなみに電子世界に潜っている最中に空き巣にやられたというニュースはたまにだけど見ることが出来る。


 それについては、


「ご愁傷様」


 としか言えないんだけど。


「じゃあ先に行ってるね?」


 そう言って秋子は僕の腕に抱き付いてクオリアを放棄した。


 僕の腕にフニュンとした感触が纏わりついたけど、


「……なんだかなぁ」


 六根清浄六根清浄。


 それから僕も電子世界にダイブする。


 アドレスは既に秋子と夏美と共有している。


 時間も問題は無い。


 さて、


「…………」


 意識をセカンドアースに置く僕だった。




 セカンドアース。




 名の意味する通り『二つ目の地球』のことだ。


 正確には電子世界において地球を再現したサーバを指す。


 ヴァーチャルリアリティで(仮想現実ではあるけれども)地球を体験でき、アドレスによって色々な場所に飛ぶことが出来るため男女のデートの一環として場を提供している側面もある。


 後は海外旅行なども簡潔に出来る。


 たとえば僕や秋子の肉体は日本にあるし、セカンドアースでも近場のショッピングモールにアバターを顕現させてるけど、アドレス次第ではニューヨークでもパリでもサヴィルロウでもハワイでも好きなところ行くことが出来る。


 なのでセカンドアースは電子世界のデート場所として重宝されるのだ。


 ちなみにセカンドアースが電子世界に創られた模造地球だとしても米軍基地やカイラス山には侵入不可能であることを明記しておく。


 こちらに関してはプライドや信仰心の問題だ。


 カイラス山はともあれ。


 例えばエヴェレストの登山なども気楽にできるのがセカンドアースの良い所だ。


 第二の地球と銘打っている辺り、エヴェレストの登山には現実世界同様の装備が必要になるけど、吹雪にやられて迷ったり雪崩に巻き込まれて死ぬ可能性が無いだけ安全だ。


 他にはサヴィルロウやナポリなどで(常々電子世界の……である)仕立て服を注文することも可能だ。


 その辺りワールドワイドと云うか、


「セカンドアースは世界の距離を縮めた」


 と言っても過言ではない。


 そんなわけで、週末になればトレヴィの泉やヴェローナあたりはデートスポットとしてログインしてくる男女のカップルで混雑する。


 僕と秋子は行ったことないけどね。


 それについては後述するとして、


「さて」


 僕は先にセカンドアースにログインした秋子のアバターを見つける。


 相対位置的にアバターが重なることを避けるため、同一ログインした場合少し離れた場所に顕現するのだ。


「雉ちゃん……!」


 と秋子が呼ぶ。


 そして、「えへへ」とにやけて僕の手を取る。


「デートデート」


 秋子は嬉しそうだ。


「雉ちゃんとデート……!」


 そんなに有難がるもんでも無い気がするんじゃが~?


 まぁ夢を壊すのは止めておこう。


 サンタ実在論くらい悲しい話になりそうだ。


 ところでサンタの仕組みってどうなっているんだろうね?


 閑話休題。


 僕は秋子を見る。


 ちなみにセカンドアースは電子世界でありヴァーチャルリアリティであるためアバターは好きにいじれる。


 秋子は青色のロングに青い瞳にブランドの服を着た美少女アバターだ。


 僕も黒髪黒眼の平凡的少年ではない。


 白い髪に赤い目の美少年アバターである。


 いいでしょ。


 電子世界のアバターでくらい格好つけても。


「じゃ、行こっか雉ちゃん」


「もうちょっと待って」


 意気揚々な秋子の言葉に水を差す。


 時間通りならそろそろ来るはずだ。


「お待たせ」


 そして赤いロングヘアーに赤い瞳の美少女アバターが僕と秋子に合流した。


 既にアバターの情報を持っている僕はそれが誰かを察しえた。


「待ってないよ。今来たとこ」


 デートにお決まりの文句を口にする。


「誰?」


 秋子が問うてきたけど、まぁそうなるよね。


「信濃夏美。今日の連れ」


「…………」


 秋子の眼差しが氷点下を下回ることは避けられなかった。


 気にする僕でもなかったけど。

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