第11話彼女の事情4


「う~ん」


 むにゃむにゃ。


「あう~」


 むにゃむにゃ。


 徐々に意識を覚醒させながら僕は朝食をとっていた。


 当然言わずもがなだけど秋子が創った手料理だ。


 今日は白米に目玉焼きときんぴらゴボウと味噌汁だ。


 僕が(こだわっているわけでもないけど)日本食を好きであるから秋子は日本食が必然得意となっているという下地が存在する。


「どうかな?」


 秋子にとっては僕にふるまう食事の一回一回が大一番だ。


 だから僕は、


「九十二点」


 ニッコリと破顔した。


 それだけで、


「……っ!」


 パァッと秋子の表情が華やぐ。


 夏の向日葵さえも色褪せる百パーセントの笑顔だ。


 これに参らない男はいまい。


 ゲイと例外を除いて。


 ちなみに僕は例外だ。


 ゲイでないことを強く主張しておく。


「…………」


 ズズと空気を含ませて味噌汁をすする。


 ちなみに猫舌と云う概念は迷信らしい。


 熱いモノを飲むときにズズズとすするのは大気中の空気を含ませて飲み物の温度を下げているだけで、それが苦手な人間がいわゆる猫舌とのこと。


 仮に熱い飲み物をストローで吸えば誰であろうと口内を火傷すること必至だとか。


 特に意味のある講釈でもないけど。


「ところで雉ちゃん?」


「なに?」


「今日は何処に行く?」


「カイラス山で五体投地とかどう?」


「それってデートじゃないよぅ」


「うん、まぁね」


 ちなみにセカンドアースでもカイラス山は禁足地です。


 まさか秋子に通じるとは思ってなかったけど。


「適当にシャンゼリゼ通りでも行く?」


「週末だから混んでると思うよ?」


 デートスポットだしね。


 ちなみに今日は土曜日。


 週末だ。


 学校はお休みで、約束した秋子とのデートの日である。


 僕はつやつやの白米を食べて提案する。


「じゃあそこら辺でいいんじゃない? 近場のモールとか」


「うん……」


「カイラス山でもいいけど」


「うーん……」


 一文字多いだけで全く別の解釈になるね。


 いいんだけどさ。


「何時ごろからデートするの?」


「昼の十二時」


「正午ね……」


「それまで僕は寝る」


「じゃあ午前中は掃除でもしよっかな」


 一家に一台紺青秋子。


 便利ね。


 言わないけどさ。


 味噌汁をすすり終えてあらかた片付けると、


「ご馳走様」


 僕は一拍。


「お粗末様でした」


 ニッコリ笑って秋子は食器を片づけ始める。


 何でも、


「私の作った料理が雉ちゃんの栄養になるならこれ以上は無いよ」


 らしい。


 つくづく幸せな奴。


 やっぱり言わないけどさ。


「お茶飲む?」


「二度寝したいからカフェインの入ってない奴……」


「梅こぶ茶でいい?」


「ウェルカム」


 くしくしと重たい瞼をこする。


 それから量コンを意識で操作して信濃さん……じゃなくて夏美の量コンとコンタクトを取る。


 指揮者の様に視界に広がったイメージウィンドウを指で操作して今日の予定を告げる。


 返ってきたのは肯定的な返事だった。


 ん。


 良かれ良かれ。


 秋子にはまだ言ってないけど気にするこってもないでしょ。


 結論は変わらない。


 別に、


「二人きりでデートをする」


 と確約したわけじゃないし。


 詐欺の理論なのは知ってるけど。


 さて、


「はい。お茶」


 秋子は梅こぶ茶を準備してくれた。


「あんがとね」


 一応の礼を言ってズズズと飲む。


 うむ……いい仕事。

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