第13話彼女の事情6


 さて、


「とりあえず意思の疎通および統合が必要だ」


 ということで近場の喫茶店に入る僕たちだった。


 もちろん電子世界のセカンドアースにおける喫茶店だ。


 セカンドアースはネットマネー本位制をとっているためネットマネーによる支払いが必然と言える。


 今日金を出すのは僕。


 呂布セットがオークションにて六十五万で落札されたからデート代くらいでは動じないんだけど。


 そしてネット売買で三人分のコーヒー(仮想体験)を注文し、飲みながら予定と事実と人間関係の摺合せ。


「なんで信濃さんがいるの?」


 当然と言えば当然。


 秋子は不満そうだった。


 元より僕と二人きりのデートのつもりだったのだろう。


 そこに横紙破りが現れたのだから疑ってかかろうと云うものだ。


 気にしてないんだけどさ。


「色々と話す機会が欲しくてね」


 僕は肩をすくめてVRコーヒーを飲む。


「機会……!」


「そっちの意味じゃない」


 そこだけは断言しておかねばならない。


「で?」


 とこれは僕。


「なんで僕がオドの師匠に成んなくちゃならないわけ?」


「オド?」


 秋子にしてみれば想定外の言葉だろう。


 僕との付き合いで「オド」が「オーバードライブオンライン」の略称と云うことくらいは察しえるだろうけど。


「その……」


 夏美は困惑していた。


 恥じらっているとも言える。


 それは中々に扇情的だったけどツッコむまい。


「墨洲総一郎くんって知ってる?」


 知らない僕は小首を傾げる。


「誰でしょう?」


 秋子も同意見の様だ。


「まぁそうだよね」


 納得する夏美。


 ちなみにその態度は……僕と秋子が固有結界を作ってイチャイチャしているから他のクラスメイトの存在なぞ気にしていないという暗喩であることは後日知った。


 ともあれ、


「クラスメイトの一人だよ」


 夏美は語る。


 夏美のクラスメイトと云うことは僕と秋子にとってのクラスメイトでもあるだろうけど生憎と知らない。


 そう言うと、


「とりあえず」


 と、思案した後に「墨洲総一郎」のパーソナルデータを僕と秋子に送る夏美。


 イメージウィンドウに出たデータを読み込んで、


「ふむ」


 と僕は唸る。


 中々の美少年だ。


 黒髪ショートは僕と同じだけど華やかさが僕と違う。


 所謂一種の爽やかスポーツ少年といった様子だ。


 ツンツンはねた雲丹頭。


 なんだこのリア充。


 死ねばいいのに。


 重ね重ね言葉にはしないんだけど。


 コーヒーを飲む。


「それで? なんで雉ちゃんにコンタクトしたの?」


 秋子の言はささくれ立っていた。


 さもあろう。


「私ね。墨洲くんが好きなの」


「…………」


 この三点リーダは僕と秋子の分。


 気にせず夏美は語る。


「墨洲くんがオーバードライブオンラインをやってるって知ってね……。とりあえず近づきたくてオドのアカ作って墨洲くんに話しかけたんだけど墨洲くんはギルドに所属していて初心者不歓迎って言われちゃった」


 ……なんとなぁく読めてきたな。


「でも私VRMMOなんてやったことなくて……」


 だろうね。


「だからVRMMOの練習しなくちゃって思ったんだけど一人じゃどうしようもないから春雉に頼んだって話」


 スラスラと言い切ってコーヒーを飲む夏美。


「つまり墨洲総一郎だっけ……? そいつに認められる程度のVRMMO適性が欲しいわけだ」


「まぁ言ってしまえばそう云うことだね」


 ふぅん?


 健気なことで。


「じゃあ雉ちゃんに近寄ったのはそういうこと?」


 窺うような秋子の言に、


「うん」


 躊躇わず夏美は頷いた。


「なら私もオドをプレイする!」


 秋子は高らかに宣言した。


 なにゆえ~?


「信濃さん……じゃない、夏美ちゃんが雉ちゃんにほだされないか監視するため!」


「秋子はVRMMO苦手でしょ」


「それは夏美ちゃんも一緒」


 そうだけどさ。


 一応僕はプロなんだけど?


 足手纏いが一人から二人に増えようとこの際は関係ないんだけど……。


 問題は、


「超過疾走システムに対応できるかどうか」


 だよねぇ。


 ズズとコーヒーをすする。


 それから散発的に話し合いながら僕と夏美と秋子とで、ある程度の時間を潰すのだった。

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