第14話彼女の事情7
依然VRデート中。
今は築地にいた。
無論セカンドアースでね。
量コンで世界が繋がった今、セカンドアースに距離と云う言葉は成立しえない。
いつでもどこにでもいける。
例外はあるけどね。
例えばセカンドアースにおけるカイラス山への侵入可否という議論はネットニュースでも話題になる。
今のところ、
「セカンドアースでも不可」
と神聖不可侵な場所だ。
セカンドアースは企業の開発したものとはいえ、ぶっちゃければ世界市場を一つのサーバに取り込むことだ。
である以上国家の云うことには逆らえず複数の宗教の聖地であるカイラス山はいまだ霊峰として確立している。
ちなみにアングラサイトではカイラス山を完全再現して登山することの出来るアプリもあるが、それは言わぬが花だろう。
閑話休題。
築地だ。
週末ということもあってか賑わっていた。
僕は秋子と夏美を連れてVR築地を見てまわった。
視界には(VRだけど)広告がいくつも広がる。
それらを最小化しながらネタ探しに歩き回る。
「ところでさ」
デートなのだから四方山話もいいだろう。
「何で墨洲を好きになったの?」
ちょっと無粋かもしれないけど。
「ええと……格好いいよね?」
「まぁね」
墨洲のデータを視界にイメージウィンドウとして取り出して納得する。
黒髪ショートの健全大和男子かつスポーツ少年的な爽やかさがある。
ネトゲ廃人の僕とはえらい違いだ。
いいんだけどさ。
嫉妬するより諦観に傾く。
デザイナーチルドレンの技術が確立しているためこの程度の美少年は珍しくも無いけどさ。
「それに優しいし……」
「優しいんだ?」
「うん。とっても」
夏美は破顔した。
「入学してすぐの頃だったかな。私がはしゃいでて廊下で墨洲くんとぶつかったの」
「ベタだ」
他に何と言えばいい?
「ぶつかって倒れたらちょこっと……本当にちょこっとだよ? 転んじゃって」
「ほう」
「膝を打って赤くしちゃったんだよね」
「あー」
オチが見えた。
「そしたら墨洲くんが『大丈夫か』って。『保健室行かなきゃ』って。よく見ないとわかんないくらい小さな打ち身を真剣に心配してくれて保健室に無理矢理連れて行かれて治療してくれたんだぁ」
夏美からハートの乱舞するオーラが幻視できた。
「普通そんなことでそこまでする? ごめんで済ませるよね? でも墨洲くんは私が悪くてぶつかったのに私の気にも留めないような傷を治療してくれたんだ。その時に思ったの。ああ、この人は優しい人だって」
「でもオドでは拒否られたんだよね?」
これは秋子。
僕も言葉にはせねど同意見。
だけど恋する乙女理論は常識の追随を許さない。
「譲れない物は誰だってあるよ」
それが結論らしかった。
「きっとオドは墨洲くんにとって大事なモノなの。だからそこでならもっと墨洲くんの真意に触れられる。そのためにはVRMMOを理解しなきゃ」
で、僕に目をつけたわけだ。
「何だかねぇ」
お安く出来てるね。
良いんだけどさ。
別に。
「一応聞いておくけどVRゲームはオドが初めて?」
「うん!」
いっそ清々しい。
「で、やり方わかんなくて」
あはは、と笑う夏美。
だろうね。
多分オーバードライブシステムを採用しているためVRゲームに適性を持っていない初心者には厳しい環境のはずだ。
「難しいの?」
これは秋子。
「初心者お断り的な空気はあるなぁ」
基本ソロプレイの僕でもその程度の空気は感じ取れる。
「お……」
そんな会話をしながら歩いていると美味しそうなマグロのブロックがあったのでネットマネーで購入する。
アドレスを指定して量子変換で秋子の……紺青さんの家に送る。
「うわ。高い買い物……」
驚く夏美。
そうかな?
「もしかして春雉ってお金持ち?」
「まさか」
いくつかの収入源があるだけだ。
親がいないから自分で働くしかなく、今は自由な金銭が手元にあるってだけのこと。
「紺青さん家にはお世話になってるからね。たまには還元しないと」
「雉ちゃん……気にしなくていいよ? 私が好きでしてることだし……」
まぁそうだろうね。
「そういう意味での気遣いはしてないよ。単なる気持ち」
苦笑して秋子アバターの青い髪を撫ぜる僕だった。
「たまにはお礼させてよ。それくらい良いでしょ?」
「あう」
アバターの頬を染めて恥ずかしがる秋子だった。
「…………」
夏美がジト目になる。
「春雉と秋子だけの神聖不可侵結界の構築故に知り合いの輪が増えないんだよ」
とは後から聞いた話。
少なくとも秋子にとっては都合の良い展開なのだろう。
僕も別に気にしているわけじゃ……ないんだけどさ。
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