第90話あなたは太陽の様で3


 別にランドアークシステムを利用しても良いんだけど、


「雉ちゃんもやしっ子だから」


 という理由で(多分本心は別にあるんだろうけど)僕と秋子は、肩を並べ歩いて、登校し、到着する。


 瀬野三だ。


 昇降口で、上履きに履き替えようとして、


「おやまぁ」


 メモ用紙が、僕の靴箱に入ってるのが見えた。


 靴を履き替えながら、メモ用紙の中身を見る。


「あなたはまるで太陽の様。直視できないほど眩いのにその暖かさには比肩が無い」


 …………。


 ………………。


 ……………………。


 ……何でしょう?


 この毒電波感は。


 ちょっと恋文かと期待した……僕の期待と焦燥を返してほしい。


 言っても詮方無きことだけど。


 ていうか、これって大日本量子ちゃんの『あなたはまるで』の歌詞の一節だったはずだ。


 となれば、一番考え得る可能性は、入れ間違いだろう。


 ていうか、僕は、太陽に比喩されるような存在ではない。


 『あなたはまるで』は良い曲だと思うけど、それで僕を比喩するのは何だかな。


 仮に、当人にとって、僕が太陽だとしても、詩を綴って送りつける意味がわからない。


 名無しさんからの、一方的な睦言なのだろうか?


「雉ちゃん?」


「ん~?」


 僕は、クシャッと、メモ用紙を握りつぶすと、ポケットに入れて秋子の方を向く。


「いこ?」


「だね」


 早くクーラーの効いた教室に入りたい。


「腕に抱き付いていい?」


「ふむ……」


「駄目……?」


 秋子は拒絶されることを怖れる、子犬の表情だ。


 結論。


「好きにしなさって」


「だから好きだよ雉ちゃん?」


 顔を赤らめて、照れながらも、僕の腕に抱き付く秋子は、嬉しそうだ。


 そのワイシャツを押し上げている物が、僕の腕に押し付けられていて、僕の情欲は嬉しそうだ。


 呆れもあるけど、どっちも嬉しいのだから、これはこれでいいのだろう。


 男子からは嫉妬と羨望の視線。


 女子からは軽蔑と胡乱の視線。


 さすがに三ヶ月以上こんなことしてれば、衆人環視の決して褒められたものではない視線にも……慣れるわけで。


「紺青秋子は土井春雉の嫁」


 的な集団無意識が、形成されていてもおかしくない。


 何より秋子への慕情を発破させる人間が、目に見えて減った。


 僕が防波堤あるいは防風林になっているのだ。


 特に言い訳の必要も無いため、無視する僕。


 そして、それ故に孤立する。


 正確には、秋子と二人だけとなる。


 今は夏美もいるんだけどさ。


 秋子の乳房を独り占めして、廊下を歩く。


 肘が幸せ。


 僕が幸せ。


 秋子が幸せ。


 こんな感情が、地球を包めば、恒久的世界平和が訪れるだろう。


 おっぱいは世界を救う。


 僕としては嫌な世界平和だけど。


 閑話休題。


 というか、それ以上、思考を進めたくないだけだ。


 教室に入ると、一瞬だけ視線が集まり、それからクラスメイトたちは各々の交遊関係に意識を戻す。


「はい。ここまで」


 僕は腕に抱き付いていた秋子を振り払う。


「これ、ありがとね」


 濡れタオルを秋子に返す。


「どういたしまして」


 量子変換。


 そして僕は自身の席に向かう。


「おはよ」


「おはようございます」


 隣の席の知己に挨拶すると、丁寧に返ってきた。


 信濃夏美である。


 赤い髪と瞳の美少女。


 着ている服は瀬野三の制服だけど、さっきまでの盛り上がりを実感として覚えていると「残念」としか言いようのないスットントン。


 夏美はデザイナーチルドレンだ。


 顔の印刷が、まことによろしい。


 どうせ遺伝子弄るなら、胸の成長も改ざんすればよかったのに。


 僕は、


「乳房無条件降伏派」


 であるため、おっぱいの大きさ小ささに、優劣をつけることは無い。


 別に貧乳でも、かまやしないのだ。


 当人に言えば、立派にセクハラだから、言わないけど。


 正直なところ、貧乳にコンプレックスを抱える美少女(この場合は夏美のことである)というものにも、趣を感ずる。


 例えば、これが総一郎あたりなら、


「乳房肥大化信仰派」


 となり、


「おっぱいは大きければ大きいほど良し!」


 なんちゃって。


「春雉?」


「なんでっしゃろ?」


「いえ、視線が気になって……」


 胸を見ていた、とは死んでも言えない。


「この前のキュアプリ見た?」


「まぁ」


「キュアニュートンの活躍シーンの作画、良かったですね」


「僕としてはキュアアンペア派なので、出番が少なかったのが不満なんだけど」


 色々と、夏美に染められていってる僕である。


 他に友達いないし、臆する理由もないんだけどさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます