第32話超過疾走症候群5
脳内アラームが鳴る。
鬱陶しい。
けど珍しく僕は起きた。
何故かって……、
「まぁ」
憂慮することがあったから。
「くあ……」
欠伸を一つ。
寝室に置いてある姿見に映るのは、白い髪に赤い瞳のアルビノ美少年ではなく、黒い短髪の中肉中背かつ平均的な大和男子。
いっそ冴えない男の子。
少しだけオドにログインして、アイテムの収集率を見る。
幾つかは収集していた。
残っているのは、
「オーディンのアバター」
「オーディンの眼」
「グングニル」
だけと相成る。
まぁ時間の問題だ。
そしてゲームをログアウト。
腹をボリボリと掻きながら、ダイニングに顔を出す。
キッチンから、
「わっ!」
とか、
「はわわっ!」
とか、
「きゃっ!」
などと悲鳴が聞こえてくる。
「やっぱりか……」
案の定、秋子が四苦八苦していた。
さもあらん。
「超過疾走症候群」
格好良く言い直すなら、
「オーバードライブシンドローム」
という症状だ。
オドでは脳の認識によって幾らでもアバターの速度を加増できる。
無論脳は脳。
肉体を動かすのも脳なら、アバターを動かすのも脳。
現実とVRゲームを混同する事件がたまにニュースで流れるけど、オーバードライブシンドロームもその延長線上だ。
要するに脳が、
「加速したアバターの機能」
を、
「現実世界でも出来るはず」
と誤認してしまうのである。
大した害は無いんだけど、
「脳のインプット」
と、
「体のアウトプット」
に齟齬が発生する。
多分秋子は、それに戸惑っているのだろう。
「秋子~」
「はややっ! 雉ちゃん一人で起きたの!?」
失礼な奴め。
普段の行ない故に反論は出来ないんだけど。
「朝ご飯はもうちょっと待って?」
「いや、いい」
いっそ、
「作らなくていいよ」
と僕は言った。
言いながらキッチンに顔を出す。
どうやら卵を取り落したらしい。
秋子は雑巾で床に広がった黄身や白身を拭き取っていた。
「ごめん雉ちゃん。なんか今日は調子が悪くて……」
「知ってる」
僕はレンジの形をした量子質量変換機を操作してネットにアクセス。
ネットマネーと引き換えに焼き鮭定食を具現化した。
白米と焼き鮭と生卵と味噌汁と味付け海苔。
それらをダイニングに持っていって食事を開始する。
うん。
秋子の作った御飯の方が美味しい。
まぁ文句を言って始まるもんでもないから、そうはしないんだけど。
「あぅぅぅ……」
と秋子の情けなさよ。
ちなみに今日は休日なので遅刻の心配もない。
「なんだか今日の体はおかしいよ……」
秋子が項垂れている。
だろうね。
多分あっちもそうなのだろう。
そう思っていると、
「信濃夏美様よりコンタクトがあります」
と視界にイメージウィンドウが表示される。
意識でソレを操作して、コンタクトを許可する。
「春雉!」
「何でっしゃろ?」
ちなみに会話をしているけど、あくまで思念言語であって、僕自身の口は焼き鮭を食べている最中だ。
もむもむ。
「体の調子がおかしいんです!」
「だろうね」
「わかってるんですか?」
「概ね」
「どうにか出来ますか?」
「凡そ」
ズズと味噌汁を飲む。
「とりあえず」
僕は味噌汁を飲みながら夏美のイメージウィンドウにポイントを付ける。
「十時に此処に集合。僕と秋子も行くから。多分ソレで解決する」
「はあ……」
夏美はポカンとしていた。
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