第33話超過疾走症候群6


 そして待ち合わせ。


 休日と云うこともあって、少しデート気分。


 主に秋子がね。


 僕は黒いジャケットにジーパン姿。


 秋子は薄手のセーターにスカート。


 それからニーソ。


 絶対領域と云う奴だ。


 で、夏美を待っている。


「雉ちゃん雉ちゃん?」


「な~に~?」


「ここで何をするの?」


「筋トレ」


 他にあるまい。


 僕と秋子が立っているのはスポーツジムの入口だった。


 ちなみにスポーツジムは現在において欠かせないファクターとなっている。


 というのもVRゲームが乱立する時代だ。


 フィジカルな側面が蔑にされるのも一つの事実で。


 だから肉体を鍛えるためにスポーツジムに通う人間は多々いる。


 別にマッチョを目指しているわけでもないんだけど、


「それはそれ」


「これはこれ」


 というわけだ。


 と、


「お待たせしました」


 夏美登場。


 十分遅刻。


 よほど急いだのだろう。


「ぜぇぜぇ」


 と息を荒くしていた。


「遅刻だよ夏美ちゃん?」


 責めるような秋子に、


「ごめんなさい」


 萎縮する夏美。


「私の運動力なら間に合うと思ったのですけど」


 あ。


 駄目だ。


 完全に超過疾走症候群に侵されてる。


「とりあえず中に入ろっか」


「なんでスポーツジム?」


「疑問です」


 そんな二人の問いには答えず僕たちはスポーツジムに入る。


 僕はアカを持っているけど秋子と夏美は新参だ。


 ネット契約を結び、金銭を払って中へ。


 そしてランニングマシンを利用する。


 その前に、


「とりあえず」


 僕は言った。


「君たちの脳と体の齟齬は、超過疾走症候群と呼ばれている症状だ」


「ちょうかしっそうしょうこうぐん?」


「然り」


 頷く。


「別名オーバードライブシンドローム。オーバードライブオンラインのプレイヤーがまま陥る症状だよ」


「はぁ」


「へぇ」


 理解してないでしょ君たち……。


 いいんだけどさ。


「要するにオドの超過疾走システムと現実の運動能力をごっちゃにすることで起きる肉体感覚の齟齬を指すんだよ」


「齟齬」


 とこれは夏美。


「夏美の遅刻がその良い例だ。要するに『私の運動能力ならこれくらいの時間で間に合う』と認識したが故に盛大に遅刻したわけだ」


「う」


 呻く夏美。


「それで何でスポーツジム?」


 小首を傾げて秋子。


「自身の身体能力の事実的限界を知るため。それには実際に運動するのが一番効率的なんだよ……」


「はぁ」


「へぇ」


 というわけでインドア派の僕たちはランニングマシンを利用して延々と走り続けるのだった。


 一時間経過。


「も……駄目……」


「ぜぇ……はぁ……」


 秋子と夏美はへばっていた。


 僕もだけど。


 タオルをポップして汗を拭きながら言う。


「これでわかったでしょ?」


「何が?」


「何がでしょう?」


「自身の運動能力の限界が」


「それは……」


「そうですけど……」


「要するに現実とVRゲームの齟齬を解消するには自身のちっぽけさを確認するのが一番いいんだよ。そのためにスポーツジムは存在するんだから」


 事実、


「これで自身の基礎能力は自認出来たでしょ?」


「それは……」


「そうですけど……」


「現実とゲームをごっちゃにする人間ほど現実と遊離しちゃうものなんだ。そしてそれを解消するには自分の限界を知ることが一番の近道。オドにおける超越者としての能力と現実のちっぽけな自身の能力を乖離させるならこういう方法が一番の特効薬ってわけ」


「むぅ……」


「です……」


「結局ゲームはゲーム。現実は現実。それを前提にしないと始まらないってことかな?」


 ちなみに他人の事は言えません。


 僕もいわゆる『VR世代』なので。

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