第34話大日本量子ちゃん1


 毎度毎度ではあるんだけど、


「雉ちゃん!」


「あいあい?」


「起きて!」


 この幼馴染は……。


 僕に構っていないで男を見繕えばいいのに。


 だから恋人が出来ないのである。


 僕が、


「偉そうに言えるか」


 と問われれば、


「否」


 としか返せないんだけどさ。


「今日は日曜でしょ……。寝かせて……」


 たしか昨日は土曜日だったはずで。


 である以上次の日が日曜日なのは必然だ。


「いいお天気だから雉ちゃんの布団干すの! 起きる! ホットコーヒー置いてるから! カフェインで目覚まし!」


「うぅ……」


 ゴロゴロと転がってベッドから脱する。


 欠伸をした後、


「むー……」


 唸りながら立ち上がる。


 秋子はテキパキと僕のベッドから布団をはぎ取って、布団からシーツをはぎ取って、二階のベランダから布団を干すのだった。


 シーツは洗濯機の中へ。


「むーーー」


 僕はと言えばダイニングでコーヒーをすすっている。


 手ずから淹れたものであろうことはなんとなくわかる。


 一家に一台、秋子である。


 ついでにネトゲヘビーユーザーで無駄飯喰らいの春雉くんも付いてきます。


 というか春雉くんがいない家で秋子は一切家事をしません。


 難儀な便利メイドである。


 メイドじゃないけども。


「…………」


 たまに秋子にメイド服とか着せて見たくなる。


 大和撫子だから似合わないかもね。


 視界に秋子の3Dモデルを作ってメイド服を着せてみる。


 一種のセクハラだけど自己完結する分においては法に触れない。


 結果モノトーンのメイド服が似合うと査定。


 そろそろ目も冴えてきた。


「秋子~。飯~」


 駄目人間だ。


 僕。


「はいはいは~い」


 何においても僕を優先する秋子である。


 僕に呼ばれればどこへだってやってくる。


 マグ○大使もさながらだ。


 さて、


「ご~は~ん~」


 僕の我が儘に、


「はいな」


 嫌な顔一つせずキッチンに立ってくれる。


 できた子だ。


 貰い手がいればいいんだけど。


 ちなみに秋子の両親は既に超越しちゃっている秋子の態度に対して諦観を漂わせているのだった。


 それでいいんですか?


 お義父様?


 お義母様?


「…………」


 愉快な想像じゃないので破却。


 ああ。


 起きちゃったなぁ。


 微妙だ。


 嬉しさ半分。


 悲しさ半分。


「はい雉ちゃん」


 秋子は僕の舌に合わせた日本食を繰りだした。


 白米と納豆と白菜の漬物と豆腐の味噌汁。


 全てが完成度高く洗練されていた。


 両親のいない僕にとって秋子の手料理は家庭の味だ。


「どう……かな?」


 秋子はおずおずといった様子で問うてくる。


「…………」


 白米をもむもむ。


 嚥下。


「僕がどう言うか知ってるはずでしょ?」


「雉ちゃんの口から聞きたいのっ」


 やれやれ。


「文句なし」


 案の定秋子はパッと表情を華やがせた。


 照れちょる照れちょる。


 納豆を食して白米で流し込む。


 出汁も辛子も一級品だ。


 全てを食べ終え、


「ご馳走様でした」


 と犠牲と秋子に感謝。


 一拍する。


「お粗末様でした」


 それから秋子は朝食の後片付けを開始した。


 僕はと言えば今日の予定の確認。


 量子とは昼からの約束だ。


「とりあえず秋子の昼食を食べてから考えよう」


 そう決めた。


 反論は受け付けない。


「婆さんや」


「何でしょう爺さんや」


「昼御飯は何ですか?」


「明太餅もんじゃにしようかなって思ってるけど……大丈夫?」


「美味しそうだね」


 何処までも率直に僕は言った。

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