第50話フラグ交差点5
授業を終えて帰宅。
今日の晩御飯はサバの味噌煮だ~!
……ええ。
作るのは秋子なんですけど。
ガチャリと開錠。
玄関に踏み込むと量子が出迎えてくれた。
「…………」
秋子がフリーズする。
「…………」
僕はジト目と切れ目の中間値になる。
「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」
裸エプロン姿で量子が戯けたことを言ってきたからだ。
「別にいいけどさ」
嘆息。
「ダイショとってネットにばらまくよ?」
ダイショ。
正式名称ダイレクトショット。
量コンを使って視覚の得た信号を画像ファイルに落とし込むことを言う。
パソコン時代のスクリーンショットを視覚に適応させたもの……といえばわかりやすいだろうか。
電子アイドル大日本量子ちゃんの裸エプロン姿。
さぞ使えることだろう。
「でも元から二次ェクトでは色々されているから今更じゃない?」
まぁね。
画像加工や3Dモデルの弄りなど、二次ェクトは大して珍しくない。
当然電子アイドル大日本量子ちゃんの二次ェクトなぞ男の妄想の供物にされて当然(利権の関係上、量子の模倣は電子犯罪に相当するのだけど)と言える。
ちなみに二次ェクトは二次オブジェクト略称だ。
結局のところ量子はアイドルとはいえデータ上のモノである。
ならば再現は容易い。
オリジナルは、ブレインユビキタスネットワーク網羅監視システムであるため、コピペは出来ないけど、二次ェクト産業が興るのは当然と言えるのである。
たまに電子犯罪に触れる二次ェクトも出てきて、ニュースになったりもする。
電子犯罪ダメ、ゼッタイ。
そんなキャッチコピー故に、量子の発禁二次ェクトを生み出す人間は、勇者と言えるかもしれなかった。
「電子世界でくらい好きにさせりゃいいのに」
とは僕の言。
まぁ結局のところ、ダイショは撮らずに家の投影機をオフ設定にすることで、僕は裸エプロンの量子を除外した。
「やれやれ」
首を鳴らして秋子と一緒に家に上がる。
「雉ちゃん……裸エプロンが好きなの?」
「好きですが?」
「私がしたら嬉しい?」
「多分機嫌を損ねると思うな」
「あう……」
冗談じゃないよ全く。
……そりゃまぁ、
「興味が無いか」
と問われれば否定材料を揃えることも難しいんだけど……秋子にアホな真似はさせられない。
とまれかくまれ、
「晩御飯よろしく」
僕は制服を脱いでくつろぐと秋子の淹れてくれたお茶を飲みながらブログ『ジキルのお部屋』を眺めていた。
反応は上々。
明日辺りにオークションに出そうかな?
「雉ちゃ~ん」
これは秋子ではなく量子の声。
「何さ?」
「投影機を作動させて」
「まともな劇画になったらね」
「嬉しくなかった?」
「とは言わないけど僕を煽ってもしょうがないでしょ」
「電子世界なら妊娠や性病の心配が無いよ?」
「やだよ。後で念入りにパンツを洗う羽目になるんだから」
VR……仮想体験は脳に誤認を与えることと同義だ。
そのため仮想体験でのエクスタシーは肉体にも及ぶ。
これ以上は情けなくなるため語りたくない。
「着替えたから投影機を~」
「ちなみに何の服装?」
「ヒモ水着」
「秋子~。お茶のお代わり~」
「わかりやすく無視しないで~!」
誠意って何かね?
秋子や量子と一緒に居るとたまにわからなくなる。
「じゃあメイド服ならどう!? ゴシック調の!」
それくらいなら……まぁ。
そんなわけでゴシックメイドの量子が立体映像として投影された。
「雉ちゃんメイドが好きなの?」
これは秋子。
クネリと小首を傾げる秋子に連動してポニーテールが揺れる。
「ロマンがあるよね」
「じゃあメイド姿で雉ちゃんに奉仕したら雉ちゃん嬉しい?」
「そこまでこだわる必要も感じないかなぁ」
茶のお代わりを飲みながらホケッと。
「私のメイド服姿は可愛いっしょ?」
エプロンドレスのロングスカートを翻しながら量子。
「立体映像に言われてもなぁ……」
「じゃあ私がメイドになる!」
「落ち着いて秋子。量子に触発されないの」
「秋子ちゃんなら大和撫子風巨乳メイドに成れるよ!」
「ですよね!」
「煽らないでよ……」
痛むこめかみを人差し指で押さえる。
それからメイド服を発注しようとした秋子を止めて、穏便に晩御飯を頂く。
サバの味噌煮は美味しゅうございました。
まる。
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