第51話フラグ交差点6
さてさて。
夜の暇な時間はオドに費やすのが僕の日課である。
最近は初心者の御守ばっかりしているけど、それ以外では土井春雉が代わりにプレイしてくれているので進捗状況についてさして問題は発生していない。
僕は襲ってくるシャドウマンをグラムで切って捨てる。
オートスキル『シーフハンド』はオフにしているため雑魚キャラからアイテムを盗むことは出来ない(というかしていない)んだけどドロップアイテムばっかりは如何ともしがたい。
無論無双ゲーであるため一体につき一つのドロップアイテムが発生すれば大変な目にあうため普通なら無視していいんだけど……僕の職業はシーフで、ラックガン上げのステータスだ。
初心者向けのレアアイテムをドロップするのは甘受せねばならなかった。
まぁ数は大したことないし換金したりフィールドに放置したりすれば問題にゃーっちゃにゃーんだけど。
ロンドンエリア。
シャドウマンが無数にわく濃霧の都にて僕ことハイドとコキアとミツナとシリョーがそれぞれに対応していた。
とは言っても初心者のレベル上げが精々のクエストフィールドだ。
ウィザードの魔弾とガンリアーの銃撃によって鎧袖一触に蹴散らされていく。
撃ち漏らしを僕とシリョーが仕留める。
僕のグラム同様ランスマンであるシリョーの槍はミラクルレアである。
その威力はシャドウマンなぞ歯牙にもかけない。
もっともそうじゃなくてもシリョーのレベルなら一般的な装備で問題はないわけなんだけどね。
そもそもにして超過疾走システムのアシストによって十倍の能力速度を持つコキアとミツナにとってもシャドウマンは問題にならないんだけど。
そしてロンドンクエストのジャック・ザ・リッパーを下してフリーフィールドへと僕たちは帰還した。
場所はロンドンエリア。
ただし非戦闘区域。
霧はあるけど見通しが悪いって程じゃない。
薄霧の景色だ。
なおロンドンエリアにふさわしく香り高い紅茶を僕たちは飲んでいた。
「そういえばさ」
僕が切り出す。
「今日の墨洲くん……」
「墨洲くんがどうしました?」
ミツナが食いついた。
「勘違いかもしれないけどオド……オーバードライブオンラインの名前に過剰に反応していたなぁ……なんて」
「湯呑落として割りましたよね」
コキアが言う。
くつくつと笑いながら。
「一緒にプレイできないものでしょうか?」
これはミツナ。
墨洲くんに近づきたいお年頃。
率直で好印象だけどね。
「でも……その墨洲くん? その人にも事情はあるんでしょう?」
とこれはシリョー。
大まかな事情は既に話してある。
「仲の良い人とプレイしてるんじゃないかな?」
「うぅ」
凹むミツナ。
「こら」
ペシンとシリョーをはたく。
「うん。迂闊だった」
わかればよろしい。
「とりあえず目標はレベル50。それくらいになれば上位プレイヤーの仲間入りだから。後は好きに墨洲くんにアプローチすればいいんじゃない?」
「レベル50で上位プレイヤーなの?」
「まぁ基本的にレベル100が目安で境目かな。使えるとなればレベル50でもかろうじて問題ないって感じ」
「でもハイドのレベル950台だよね?」
「まぁそれには色々ありまして」
言葉を濁す。
レベル限界突破の話はここでする必要は無いだろう。
もとよりミツナは邪な意思でオドをプレイしているのだから廃人ゲーマーの領域に手を染めることもない。
そういう意味ではコキアも同じなのだけど。
コキア……秋子は元よりVRMMOに入れ込むタチでもない。
僕とミツナの二人きりにさせたくないがための手段である。
シリョーも同意見だろう。
モテる男は大変だ。
……言ってて悲しくなるけど。
「なんなら僕が墨洲くんを誘おうか?」
そんな提案。
相手がレベル900台ならば墨洲くんも邪険には出来まい。
そう思っての提案だったのだけど、
「あうう……」
とミツナは尻込みする。
気持ちはわからないでもない。
誰しも惚れた相手の前では格好をつけたいのだ。
そして足手纏いになる……というよりそう思われることを何より嫌う。
となればもうちょっとミツナに付き合う必要があるのかな?
「ま、別にいいんだけど」
紅茶を飲む。
「ハイド!」
これはシリョー。
「竜渓谷に行こうよ!」
「コキアとミツナはついていけないでしょ」
レベル500相当を必要とするエリアだ。
雑魚キャラの攻撃でさえ即死するだろう。
「だから私と二人で!」
チラリとコキアを見やる。
「…………」
淡々と紅茶を飲んでいた。
黙認するという意思表示だ。
「じゃあ今日はここで解散だね。コキア。ミツナ。お疲れ」
そして意識でイメージコンソールを操作して竜渓谷に飛ぶ僕とシリョーだった。
こりゃ徹夜かな?
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