第52話墨洲の提案1


「あー……」


 やれやれ。


 コキコキと首を鳴らす。


 ウェストミンスターチャイムが鳴る。


 ホームルーム終了。


 放課後だ。


「春雉……」


 と隣の席におわす夏美。


「今日もよろしくね?」


「あいあい」


 頷く。


 オドのプレイはもはや日課のようなものだ。


「じゃあ私は見たいアニメがあるから今日はこれで」


 そう言って夏美はパタパタと小走りに去っていった。


 何でもアニメを見るときは、


「自宅で正座」


 がお約束らしい。


 夏美はオタクだ。


 今時の女子高生としての感性を持ち合わせていない。


 恋心自体は乙女だけど感性のほどが残念だ。


 なんでも、


「キュアプリについて熱弁したら女子一同にドン引きされた」


 らしい。


 自業自得だ。


 責めてるわけじゃないけどね。


 それにデザイナーチルドレンの夏美にしてみれば化粧やオシャレは今更だろう。


 素で可愛い。


 紅蓮の様な赤い髪にルビーの様な赤い瞳の完成された美少女。


 色々と厄介事を引き寄せるらしいけど、この場合はメリットの方が大きいと思うんだけどどうだろう?


 好きで美少女に成ったわけではないにしても……。


 ちなみに夏美と会話をするために僕らもおすすめのアニメを見たり電子ページをめくったりしてるんだけどこれが思いのほか面白い。


 元よりオーバードライブオンラインに傾倒している僕だ。


 オタク文化……サブカルチャーに対する適正は比較的高い。


 最近気に入っているのは「外法少女オニ狩ルもみじ」という一昔前のアニメだろう。


 内容は割愛するけど所謂一つの魔法少女モノ。


 秋子と一緒に見てるんだけど秋子も満更ではないようだった。


 さてさて、


「雉ちゃん」


 その秋子の登場だ。


 黒髪ロングの大和撫子。


 その美貌は夏美にも劣らない。


 クラスの人気を夏美と二分する双璧の一人である。


 これだけで云うのなら真っ当そうな美少女で終わるのだけど、


「一緒に帰ろ?」


 秋子は僕にベタ惚れだ。


 こっちもこっちで残念な感性。


 秋子がその気になれば彼氏の二人や三人は簡単にできるだろうに……。


 もっとも秋子の乙女回路に根差した原因を僕は良く知っているし、そが招いた状況と環境については自認しているつもりだ。


 というかそもそも論として秋子がいなければ僕は生活できないので助かってはいるんだし、そうである以上、


「利用しているのかなぁ」


 なんて罪悪感も湧くんだけど当人は全く気にしていない。


 僕が秋子の献身を遠慮すると秋子が悲しむため好きにさせているという側面もあるっちゃーある。


 事情があって秋子に恋愛感情を持ってはいないんだけど過去の意識が未来の恋心を約束するわけでも無し。


 いつか秋子に惚れる未来も訪れないとは限らない。


 そんなわけで秋子と遠慮なくイチャラブする僕だった。


 なにより巨乳だし。


 ブレザーの上からもわかる胸囲的な……失敬……驚異的なふくらみは僕を除く全男子の垂涎の的だろう。


 秋子自身は僕にしか触らせる気はないようだけど。


 わはは。


 光栄だ。


 ……虚しい。


「雉ちゃん……」


「なぁに?」


「腕に抱き付いてもいい?」


「え~……」


「何で嫌そうなの……?」


 そんな秋子の言葉は、飼い主に冷たくされた失意の子犬を連想させた。


 やれやれ……因果な渡世である。


「ん」


 腕を差し出す。


 パッと笑顔をほころばす秋子だったけど新入生美少女双璧の一人だ。


 そりゃ周りの男子生徒諸氏の反感も買うわけで。


 甘やかしてるのは自認してるけど、


「好きだよ?」


 と秋子に囁かれるのも悪くはない。


 究極的にはアップダウンの差が広がるだけとわかってはいても。


「夏美ちゃんとは何を話していたの?」


「オドでよろしくって」


 簡潔に述べる。


「夏美ちゃん可愛いもんね……」


「ん」


 コックリ頷く。


 すると、


「むぅ」


 ギュッと僕の腕に抱き付いていた秋子がその絡みを強くした。


 腕が幸せ。


「私を好きにしていいんだよ?」


「気が向いたらねん」


 他に言い様が無い。


 巨乳の大和撫子ともなれば羨望の視線が集まり、その愛を享受している僕にやっかみの視線が集まるんだけど今更だろう。


 そんなわけで秋子と腕を組んで(というか一方的に秋子が僕の腕に抱き付いて)えっちらおっちら昇降口まで歩く。


 結局のところ内履き外履きの概念は無くなっていないため学校には昇降口がある。


「お……」


 外履きに履き替えようと靴箱を開くとメモ用紙が中に入っていた。


 今時コンタクトに物理情報を使うなぞ珍しいけど、そもそもにしてこっちの事情を把握しているわけでも無し。


 何かしら事情があるのだろう。


 メモ用紙を取って見ると、


「二十一時にアクセスすること。アドレスは――」


 そんな指示が書かれていた。


「雉ちゃん……」


 秋子が呼ぶ。


「なんだか不審なメモが靴箱に……」


 ブルータスよ、お前もか。


 確認するとメモ用紙に書かれた内容は全く同一だった。


 アドレスまで一緒だ。


 これが秋子だけに対するコンタクトならば理解は簡単だったのだけど……何故に僕まで巻き込まれる?


「雉ちゃんも?」


「らしいね」


「大丈夫かな?」


 電子トラップの可能性も無いではないけどこちらには切り札がいる。


「とりあえず今は気にしてもしょうがないよ。それより帰ろ?」


「うん」


 そしてまた秋子が僕の腕に抱き付いてイチャラブ気味に下校風景となるのだった。


 六根清浄六根清浄。

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