第101話あなたは夕立の様で2


「きーじーちゃーん!」


「今日は昼いっぱいまで寝る!」


「もう朝御飯作ったよ! 夏休みだからって自堕落は許さないんだから!」


「嫁でも無い癖に……」


「いつでもお嫁に行けるよ?」


「ご祝儀は包むから寝かせて……」


「雉ちゃんのこと!」


 知ってるよ。


 言葉になんか、してやらないけど。


「夏休みくらいダラダラさせてよ……」


「寝こみを襲ってほしいなら……それもいいか……な……?」


「起きるよ。起きればいいんでしょ」


「なんでよぅ!」


 こっちのセリフだ。


「とりあえずコーヒー」


「うん」


 頷いて、


「二度寝しちゃ駄目だよ!?」


 余計なことを言いくさって、秋子は、パタパタとキッチンに消えていった。


 大和撫子然とした黒いロングヘアーが、喜色に揺れる。


「何が嬉しくて僕に奉仕してるんだかな」


 理由はわかるけど、因果がわからない。


「くあ……」


 と欠伸。


 それから着替える。


 ティーシャツにバスパン。


 時刻を見る。


 視界に映る、映像の一角が、時刻を表示している。


 現在午前九時。


「一応幾ばくかの遠慮はあったってことか」


 苦笑してしまう。


 有難いとは……全く思えないんだけど。


 それから、ニュースサイトを幾つか視覚ディスプレイに展開させて、それらを読みながらダイニングに。


 コーヒーは既に用意されていた。


 ん。


「良かれ良かれ」


 そう言って、僕はコーヒーを飲む。


 朝食も用意されている。


 白米にほうれん草のお浸しにヒジキの煮物。


 日本食万歳。


「ちなみに郵便受けに量子ちゃんの写真集が届いてたよ?」


「さいでっか」


 別にデータで済ませても良いけど、やっぱり物質主義者は根絶できなく(僕の場合はけっしてその範疇ではないんだけど)郵便の類は衰退しなかった。


 ただし過去における人力による配達は古く、今の時代では量子質量変換によるデータ移送が、その根幹となっている。


 では、何故わざわざ郵便受けというクラシックが存続しているかと云うと、間接的にモノを受け取るためのシステムが必要であるからだ。


 屋内に郵便受けのアドレスを設置しても良いんだけど……、


「…………」


 例えば爆弾が転送されてきたら?


 例えば練った納豆が素のまま転送されてきたら?


 つまり悪意や害意に対応するために、郵便受けと云うシステムは、未だ廃れていないのである。


 無論、大日本量子ちゃんの監視が行き届いている現在において、ソレらはほぼ根絶されているけど、あくまで『ほぼ』だ。


 法の盲点を突いた嫌がらせの発見に喜びを見出す人間もいるため、害虫と同じく根絶することは不可能に等しい。


 まぁ他者から悪意を受けるようなことを僕は目一杯やっているため、用心に敷くは無いと……つまりそういうこと。


 コーヒーを一口。


「ついでに何かのメモ用紙が入ってたよ?」


「…………」


 しばし沈黙。


「メモ用紙の内容は……」


「言い当ててあげようか?」


「わかるの?」


「あなたはまるで夕立の様。恵みの雨と理解は出来るけどどうしても気落ちさせられる」


「……何でわかったの?」


 ジト目になる秋子。


 黒い瞳に僕が映る。


「別に」


 肩をすくめる。


「とある現象から、確率を収束させて、現在に最も近い推論を導き出しただけ」


 そしてコーヒーを飲み終えると、僕は朝食に取り掛かる。


「これって量子ちゃんの『あなたはまるで』の一節だよね?」


 正解。


「しかも三番」


 それも正解。


「何でそれが雉ちゃんの郵便受けに入ってるの?」


「知らね」


 嘘だ。


 条件に符合させれば、必然的に回答は導き出せる。


 安易だね……。


 この送信者は。


「秋子が気にすることじゃないでしょ?」


「そうだけど……」


 こういうところは鈍いね君は。


 他の土井春雉に関しては、鋭敏なのに。


 こっちとしては、助かっているから、文句のつけようは無いんだけど。


 さてさて。


 もっしゃもっしゃと白米をかきこむ僕。


 既にコーヒーで目は覚めてる。


「今日は何処か行く?」


「行く!」


 秋子の即答だった。


 嬉しいんなら、願ったり叶ったりだ。

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