第100話あなたは夕立の様で1


「ふっ!」


「ちぃ!」


 僕ことハイドの短刀と、スミスの両手剣が、鍔迫り合う。


 データ上とはいえ、鋼同士の衝突だ。


 ギギギギチギチ、と、刃物が鳴く。


「おおっ!」


 力に任せて押し込んでくるのはスミス。


 金髪に虎威が、碧眼には気迫が、それぞれに漲っていた。


 ちなみにスミスのソレは、アバターであるため、現実では金髪碧眼ではない。


 念のため。


 それを言ったら、僕ことハイドの白髪赤眼の美少年もアバターであるため、現実とは百七十二度違うのだけど。


 残り八度はって?


 美少年であることだけは共通してるから。


 なんちゃって。


 冗談です。


 言ってて悲しくなってきました……。


 実際は、どこにでもいる平々凡々な、もやしっ子。


 運動は大の苦手。


 正確には、


「運動するための肉体動作の最適化は類を見ないんだけど、それを可能とするための体力がついてこない」


 能力だ。


 先にも言ったけど、もやしっ子。


 いいもん。


 運動できなくたって、今の社会はやっていける。


 ちょっと体育の成績が悪いってだけで、全てを決められるのは癪に障るけど足の速い……そうだね、目の前の金髪碧眼アバターたるスミスの様に、運動が出来れば友達も女子も寄ってくるんだろう。


 羨む感情が無いかと云えば嘘になるけど、まぁ世界に一つだけの花ってことで一つ。


 スミスにしてみれば、コキアを独占している僕にこそ、羨んでいるだろう。


 なんで世の中って、こう皮肉気に歪んでいるんだろうね?


 世の中って言うか……人類意識が、だけど。


 閑話休題。


 両手剣とプレッシャーを押し込んでくるスミス。


 僕は短刀で受けていたけど、力比べに興ずる気は、微塵もない。


 一つは、片手の短刀と両手のツーハンデッドソードでは、鍔迫り合いで不利だということ。


 もう一つ、はいちいち相手にするのが馬鹿らしいってだけ。


 力に緩急をつける。


 間一髪の分だけ力を抜いて、鍔迫り合いを終えると、


「…………」


 無言で半身を引く。


 そのすぐ傍の空間を、両手剣が切り裂いた。


 シーフであるハイドは、両手剣を装備できない。


 幾つか装備できるものは有るけど、最もポピュラーなのは短刀……ナイフだろう。


 オーバードライブオンラインは、無双ゲーであるため、範囲の広い攻撃手段が特に求められる。


 である以上、両手剣の方が、短刀より有利なのは言わずもがな。


 でも、こういう時は、場合によりけりだ。


 こういう時とは、つまり一対一。


 ゲームにおけるボス戦や、模擬バトルという限定条件下で……ということ。


 再度閑話休題。


 スルリとスミスの剣閃を躱すと、僕は回し蹴りを放った。


「まだ遅い」


 その蹴りは、スミスを吹っ飛ばす。


 吹っ飛ばされて、転がって、立ち上がった瞬間、


「フォトンブレード」


「……っ!」


 スミスの喉元に、短刀グラムの固有スキル『フォトンブレード』の刃が突きつけられていた。


 目算三メートル。


 少なくともこういった計算においては、常人より遥かに正確な僕の演算能力。


 自慢にもならないけど。


 それから、フォトンブレードを解いて、仕切り直し。


「いつでもどうぞ」


「……しっ!」


 スミスが加速。


 オド特有のアシスト……超過疾走システムの恩恵は、三倍強と云ったところ。


「ギルガメスラッシュ!」


 超過疾走システムに、攻撃スキルのアシストも加わって、認識の範囲外の連撃が繰り出される……けど、


「まだ遅い」


 僕は短刀で、それらを全て弾いてみせた。


「もっと早く! もっと速く! もっと疾く! もっと迅く!」


「言われずとも!」


 速度が欲しい。


 加速が欲しい。


 時間が欲しい。


 刹那が欲しい。


 その渇望が、即ち、超過疾走システムを底上げする。


 三倍強の加速なぞ、取るに足りない。


 オドでは最大で、十倍の加速が約束されている。


 そしてイレイザーズの僕ことハイドと、コキアとミツナとシリョーは、既に十倍速を手に入れている。


 コキアとミツナについては、ちょっと法に触れるやり方で覚えさせたんだけど……。


 つまりイレイザーズ唯一……十倍速が顕現できないキャラが、スミスと云うわけだ。


 スミスは、片想いしているコキアに、超過疾走システムの手ほどきを頼んだけど、無下にされた。


 というか脳の並列化で、十倍速を身につけたのに、どう解説しろと云うのか?


 無茶ぶりと云うものだ。


 で僕にお鉢が回ってきた。


 オドで一対一の模擬戦を行い、少しずつ加速に慣れさせていく。


 どっちかってーと、こういうやり方の方が、正しいオドの遊び方だ。


「ギルガメスラッシュ!」


「やれやれ」


 高速の二十連撃を、四倍速であしらう僕。


「まだまだぁ!」


 我武者羅は、尊ぶべきことだけど、熱意の空回りともとれる。


「僕の速度に追いついてないよ?」


 結局、そこに終始するのだった。

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