第29話超過疾走症候群2


「で」


 ヴェネチアエリアの戦闘区域。


 縦横無尽に水路が形成されており、その水路からおびただしいニクシーの群れが顔を出して水鉄砲を放ってくる。


 もちろんゲームだから痛くは無いんだけど何だかな。


 コキアとミツナは怯えながらも魔術や銃で応戦していた。


 何せ相手は水中。


 近接戦闘は以ての外。


 例外はあれど。


 で、僕は例外。


「しっ!」


 フォトンブレードを展開したグラムを振るう。


 四つのクリティカルポイントの一つである頭部を切り裂きながら前に進む。


 ニクシーたちが水路にいる以上、側面には足場があるわけで。


 僕は水平に限りなく近い跳躍をして、水路を飛び越え反対側の足場に着地する。


 そして跳躍の最中に水面のニクシーに斬撃を加えているのだ。


 その速度は常軌を逸している。


「速っ……」


 ミツナが驚愕する。


 さもあろう。


 跳躍に跳躍を繰り返して、ニクシーの群れを切り滅ぼす僕の身体能力は、現実世界のソレとは幽離してるのだから。


 電光石火。


 疾風迅雷。


 僕のアバターの運動能力は、通常の十倍にまで引き上げられていた。


 疾駆。


 跳躍。


 斬撃。


 回避。


 それらの行動が一般的なプレイヤーの十倍なのだ。


 これは別にチートではない。


 いや。


 叩きだしている性能はチートなのだけど、大なり小なり運動能力の強化は全てのプレイヤーに可能なことだ。


 超過疾走システム……オーバードライブシステムと呼ばれる機能である。


 自身のアバターの運動能力を、下は二倍から上は十倍まで引き上げるシステム。


 それ故にこのゲームの名は「オーバードライブオンライン」なのだ。


 超過疾走システムを起動させる因子は実に単純だ。


 脳。


 あるいは意識。


 そこに依存しているのだから。


 つまり、


「更なる速度を!」


 と願えば願うほどアバターの身体能力は飛躍する。


 言うは易し。


 行うは難し。


 少なくとも一朝一夕で出来ることでもない。


 重ね重ね僕は例外なんだけど。


 水路からニクシーが顔を出す。


 その頭部目掛けて、コキアとミツナが魔術と銃弾をばらまくけど、それより僕の斬撃の方が疾い。


 水路の側面をジグザグに跳躍して、頭部を水面に出したニクシーを切り裂いていく。


「なんですか! その出鱈目な能力は!」


超過疾走オーバードライブシステム」


 僕の答えは簡潔を極める。


「超過疾走?」


 魔術でニクシーを吹き飛ばしながらコキア。


「要するに認識によってア、バターの運動能力を引き上げるシステムだよ。『より速く』って願えば願うほど、アバターのあらゆる速度が上昇するんだ」


「願えば願うほど……」


「そ」


 オーバードライブオンラインが他のVRMMOアクションゲームの競合を寄せ付けないのが、このシステムである。


 より速く。


 より疾く。


 より迅く。


 願えば願うほど超過疾走を可能とする。


「でもどうやって願えば……」


 それについてはセレクトボタンがあるんだけど……。


「まぁお前の信じるお前を信じろってところかな?」


 おどけて言ってみせる。


 そうこうしている間にヴェネチアエリアの戦闘区域の最終端に着く。


 現れたのは巨大なニクシー。


 キングニクシーとネームウィンドウが出る。


 ボスキャラである。


 巨大な身体……その口から繰り出される水鉄砲は強大の一言だ。


「わー!」


「きゃー!」


 コキアとミツナは慌ててソレを避ける。


「戦わないと生き残れないよ?」


 ちなみに僕が攻撃すれば、一撃で終わらせられるから、手を出していない。


「――――!」


 コキアが魔術を放ち、ミツナが銃弾を放つけど、


「キシャアアアアアアアッ!」


 水中に居ながら、機敏な動きで避けるキングニクシー。


「速い!」


「だから超過疾走システムを使ってるって言ったでしょ?」


「助けてハイドちゃん!」


「超過疾走に慣れてもらわなきゃいけないから却下」


 コキアの提案を切り捨てる。


 ちなみに魔術や銃弾の速度も超過疾走システムに依存する。


 そう云う意味では、低レベルながらそこそこの強さを持つキングニクシーは、初心者教習向けと言えるだろう。


「頑張れー」


 僕は心のこもってない声援を送る。


 結論から言えば、


「はあ……」


 結局僕が倒すことになったんだけどね。


 どうやらVRゲーム初心者に超過疾走システムは重荷らしい。

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