第59話ちょっとした深刻な変化2
「あー、さてさて」
今日は雨だった。
ニュースで確認したし、確認しなくとも雨音が伝えてくれる。
そんなわけで車を用意。
アーティフィシャルインテリジェンスの技術が特化した現在においては、自動運転に限り、子どもだけで車を扱うことが出来る。
というか、今時自動運転に頼らないのは、レーサーくらいのものだろうけど。
ランドアークシステムも発達しているため、雨の日に傘やカッパを利用する……という風習は過去のモノだ。
代わりに車で学校付近が混むんだけどね。
ちなみに何故僕が車を持っているかと云うと、節税対策のためだ。
ネットマネー本位制をとっている現在において、財産の秘匿は一級犯罪だ。
脱税でもしようものなら、大日本量子ちゃんのペナルティに引っかかる。
量子が僕を検挙するかは別問題として、ともあれ財産は監視システムによって透明かつ厳重に管理されているのだ。
であるため儲けた金銭は別のモノに変えていく必要がある。
それが僕にとっての金地金であったり高級車であったり秋子や量子とのデートによる散財であったりする。
そんなわけで節税対策の自動車に乗り込むと僕は意識を土井春雉とタッチした。
いちいち秋子に近づかれるのも面倒だし。
セカンドアースにアクセスして富士山の山頂に飛んだ。
眼下の俯瞰は雲の海。
ご来光の時間でもないためあまり人はいなかった。
風も吹いており良い感じだ。
土井春雉が教室に着くまではこうしていよう。
そんなことを思っていると、
「ウィータ!」
と突然現れた幼女が僕に抱き着いてきた。
手入れの行き届いた長いブロンドの髪にコーンフラワーブルーの瞳。
外見を自在に弄れるのがセカンドアースでの鉄則ではあるけど、ことこの幼女に関する限りではまったく外見を華美していない。
素で可愛いのだ。
不思議の国のアリスの世界から飛び出したかのような服装もよく似合っていた。
皮肉にも名を『アリス』と云うちょっとした知り合いだ。
「アリス……まぁセカンドアースに一人で来れば現れもするか……。公爵は元気?」
「お爺様は元気だよ?」
「ならいいんだけど」
「ウィータ?」
「なんでっしゃろ?」
「遊ぼ?」
「何して?」
「オド!」
いいんだけどさ。
中略。
「ロックンロール!」
「にゃははははー!」
僕とアリスは無双していた。
雑魚キャラの足軽をザクザクと切り滅ぼしていく。
アリスは日本文化がお気に入りのため江戸エリアの選択は順当だ。
フォース江戸エリアで無双して日頃のうっぷんを晴らすと非戦闘区域の茶屋で一服。
「ほう」
「いつ飲んでも美味しいね~」
抹茶を飲みながらご機嫌のアリスだった。
「ウィータ!」
「何でしょう?」
「結婚しよ!」
何をほざくんだろうこの娘……。
「いっぱい贅沢させてあげる!」
「特に必要ないかなぁ」
白玉を食べて茶を飲み一息。
「ウィータはゲイなの? 不能なの?」
「どっちも違うよ……っと……」
教室に着いたとの意識のチャンネルが繋がった。
「っちゅーわけだからアリス。今日は解散」
「えー……。まだ遊び足りないよ!」
「また今度ね」
優しくブロンドの髪を撫でて約束を取り付ける。
それから土井春雉とコントローラを交代すると紅蓮を想起させる赤い髪にルビーの瞳が僕の黒い瞳に映った。
「ですね」
夏美が苦笑した。
どうやら会話の最中だったらしい。
「あー……何が『ですね』?」
「へ? 春雉が『今日の体育は体育館でかな?』って言ったんでしょ」
「そうだったのか……」
「頭大丈夫ですか?」
「失敬な。ちょっとコントローラを土井春雉に仮託していただけ」
「?」
あまり人に話すことでもないので無理矢理話題転換。
「ところでオドには慣れた?」
「少しばかり超過疾走システムに振り回されているというところですね」
「…………」
さいか。
わからないでもない。
元より仮想体験とはいえVRゲームは脳の信号を受け持つ。
である以上オド……オーバードライブオンラインにおいて、
「フィジカルの能力がゲームの能力に適応されない」
のも事実だし、
「ゲームの能力がフィジカルの能力に適応されない」
のも事実だ。
僕は実質電子世界に比重をおいているため、稀に現実世界の能力に不満を覚えることもあるのだった。
所謂一つのもやしっ子。
もっとも、そうでなければ量子と関係を築き上げることも出来なかった。
色々としがらみはあるけど、
「これはこれで」
というのが僕の結論。
まぁそれを夏美に語ったところで、どうしようもないから言わないけどさ。
そんなこんなで僕は授業の準備を始めるのだった。
もっとも意識で学校のLANに接続して、必要なイメージウィンドウを起動させるだけのことだけど。
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