第60話ちょっとした深刻な変化3


 ザーザーと雨の降る。


 今日の体育は体育館で。


 サッと自動で仕切り網が体育館の内部を二分割。


 片方が男子で片方が女子。


 男子はバスケ。


 女子はバレー。


 ちなみに僕と総一郎は別チーム。


 僕のディフェンスを、総一郎は鮮やかに抜いていった。


 こういうフィジカルな面において、インドア派の僕はイケメンスポーツキャラの総一郎に、逆立ちしたってかなわない。


 というか、物理的に逆立ちして勝てる勝負があるなら、聞いてみたいものだ。


 電子世界での法則は、現実世界には適応されないのは重々承知しているけど、それにしたってなぁ。


 体力くらいつけるべきだろうか?


 基本的にバスケは走りっぱなしのスポーツだ。


 体育の授業であるため、一試合十分と定められているけど、それでも、


「……もう……だめ」


 試合が終わる頃には、肩で息をする僕だった。


 最後のブザービーターに、総一郎がダンクを決める。


 さすがにイケメンキャラ。


 こういうシチュエーションが様になる。


「「「「「墨洲くーん!」」」」」


 女子はワーキャー。


 総一郎のプレイに興奮したらしい。


「ども。ども」


 総一郎はにこやかに返す。


 女の子慣れしている奴……。


 ともあれ僕のチームの試合は終わった。


「お疲れ~」


 チームメイトに義理の言葉を放って、体育館の隅っこに移動する。


 そして、


「やれやれ……」


 疲労故に座り込んだ。


「雉ちゃん」


 秋子が声をかけてくる。


 近づいてくるのは覚っていたから、驚くことでもない。


「はい。お茶」


 水筒を持っていた秋子が、カップにお茶を注いで渡してくる。


「ども」


 受け取る。


「秋子は良いお嫁さんになれるね」


「ふえ! ふややっ!」


 目に見えて狼狽えられる。


 可愛いなぁ。


 赤面する秋子は本当に愛らしい。


「頑張ったね雉ちゃん」


 皮肉か。


「何にも出来なかったけどね」


 茶を飲む。


「ほら、汗ふいてあげる」


 タオルも持っていた。


「タオル渡して」


「だぁめ」


「自分で出来る」


「照れることないじゃん。私と雉ちゃんの仲だよ?」


 対外的な反応を考えてほしい。


「…………」


 すぐ諦めたけど。


 僕は秋子のふるまった茶を飲んで、秋子に汗を拭かせている。


「どこの亭主関白だよ」


 って話だ。


 男子の視線に含まれるのは羨望と嫉妬。


 女子の視線に含まれるのは呆れと胡乱。


 要するに、


「衆人環視の中でよくイチャコラ出来るな」


 である。


 わかってはいるけど、無下に出来ないのも心理で。


 であるから僕と秋子はクラスで……というより学校で孤立していた。


「紺青さーん。次うちらだよー」


 女子の一人が、秋子を呼ぶ。


「ほら、呼ばれてるよ?」


「うん。じゃあ行くよ。ちゃんと水分とって汗ふいてね? 脱水症状起こしたり風邪ひいたりしたら嫌だよ?」


「あいあい」


 首にタオルを巻いて茶を飲む。


 秋子はパタパタと女子エリアに戻っていって、バレーの試合に加わった。


「至れり尽くせりだな」


 今度はそんな嫌味が飛んでくる。


 総一郎だ。


 黒髪ショートをウニの様にツンツン尖らせているのは、やはりワックスの類だろうか?


 そういうことには興味が無いので、詳しくは知らないんだけど。


「秋子さんと付き合ってんのか?」


「いいや?」


「にしては仲良いな」


「幼馴染でね」


「本当にそれだけか?」


「気になるの?」


「そりゃなるだろ」


 ですよねー。


 そんなこんなで秋子の試合が始まる。


 レシーブやサーブをするたびに、豊満な胸が、体操服越しにもわかるほど、大波に揺れる。


「秋子さんの胸パないな」


 そんな総一郎の言。


 否定はしない。


 僕は黙って茶を飲む。


 男子のほとんどが、弾み揺れる秋子の巨乳に、視線を奪われていた。


 おっぱい星人どもめ。


 まあ顔のつくりが良くて、スタイルも良いとなれば、憧れない男子なぞ例外を除いていやしないんだろうけど。

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