第3話彼氏の事情3

「雉ちゃん! 起きて!」


 そんな一言で僕は目を覚ました。


「ん~……」


 ガリガリと頭を掻く。


 瞼を開ける。


 目に映ったのは黒髪ロングの大和撫子。


 日本美女を形にしたような子だった。


 黒髪黒眼は僕と同じだけど容姿は完璧に整っている。


 平凡な僕とは大違いだ。


 胸が大きく制服を圧迫している。


 この美貌と巨乳に余計な幻想を持った男子生徒は多々いるけど、その全てをこの子は一刀両断に切って捨てている。


 名を、


紺青秋子こんじょう・あきこ


 という。


 僕の幼馴染だ。


 腐れ縁とも言う。


 あるいは世話焼き係か。


「くあ……」


 僕は欠伸を一つ。


「おはよ。秋子」


「おはようございます雉ちゃん」


 ちなみに、


「雉ちゃん」


 とは僕のことだ。


 土井どい・春雉はるきじ


 春雉から春を除いて、


「雉ちゃん」


 である。


「朝食出来てるよ?」


「そりゃ重畳」


 何気なさを装って僕は言う。


 それから背伸びしてベッドを出る。


 ダイニングには日本食が並んでいた。


 量子変換で食材が揃うとはいえ調理するのは秋子である。


 白米。


 ほうれん草のおひたし。


 魚肉ハム。


 味噌汁。


 家庭的な料理がそこにはあった。


 全て秋子の功績である。


「だから何だ」


 と言われれば返す言葉も無いのだけど。


 僕はダイニングテーブルの席に着くと、


「いただきます」


 合掌。


 いまだ日本は仏教国である。


 別にいいんだけどさ。


 そしてもむもむと朝食を取る。


「美味しい?」


 問う秋子に、


「今更だね」


 僕は率直に言う。


「むぅ」


 秋子はしかめっ面。


 本当に今更何を言えと?


 そういうところは可愛らしいんだけど。


 魚肉ハムを食べ合わせに白米を咀嚼し、ほうれん草のおひたしを嚥下。


 最後に味噌汁を飲んで、


「ご馳走様でした」


 一拍。


「お粗末さまでした」


 ニッコリとして食器の片付けに入る秋子だった。


 ヒモだなぁ。


 誰がって?


 僕が。


 僕に両親はいない。


 無論僕が僕でいる以上両親の交合は有り得たわけだけど、二人とも亡くなっている。


 ちょっとした事故だ。


 故に僕は天涯孤独となった。


 それはまぁ構わないとして。


 家のローンは保険会社のソレで相殺して、なお両親の遺産は僕が生きるに足る金銭を残した。


 それ故に固定資産税などの煩わしい状況を除き、安穏とした生活を僕は手に入れたことになる。


 かといって自堕落な生活は送れなかった。


 秋子である。


 幼馴染。


 大和撫子。


 その持つ家事スキルは炊事、洗濯、掃除にまで至る。


 である以上、僕は秋子に飼い慣らされた。


 秋子は、


「雉ちゃんが心配だから」


 というが、


「それがどうした」


 が僕の本音だ。


 秋子の慕情は理解している。


 実際に僕にはもったいない子だろう。


 だからこそ僕は秋子を僕から卒業させねばならない。


 容易ならざる道程であることは理解している。


 が、


「なんだかなぁ」


 と言いたい気分。


 それから僕はブラックウォッチのブレザーに灰色のパンツ……つまり瀬野第三高等学校の制服を身に纏うのだった。


 ワイシャツは秋子が丁寧にアイロンをかけている。


 ダメ人間だ……僕。


 とまれ、


「じゃ、登校しようか」


 全ての準備が終わったが故に僕は秋子にそう言うのだった。

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