第9話彼女の事情2


 今日も今日とて瀬野三に登校。


 秋子を連れて。


 秋子は僕の腕に抱き着こうとしてきて、僕がソレを払いのける。


「なんでよう……」


「調子に乗らないの」


「雉ちゃんの腕に抱き着きたい」


「誤解されても面倒だし」


「嘘も百回繰り返せば本当になるよ?」


「なら百回拒もうか?」


「あう……」


 涙ぐむ秋子だった。


 ……………………やれやれ。


「ん」


 僕は手を差し出した。


 その意図は十全に察したらしい。


 手を繋いで仲良しこよし。


「えへへ」


 秋子の恋心はハリケーン。


「雉ちゃんはツンデレだねぇ」


 一瞬、繋いだ手を振り払おうかとも思ってしまった。


「好きだよ」


「だろうね」


 知ったこっちゃないけど。


 こういうのは何と言うんだっけ?


 宿業?


 運命?


 前者なら秋子は悲しむだろうし後者なら喜ぶだろう。


 ううむ……どうしたものか。


 とまれ昇降口である。


「はい。ここまで」


 僕は秋子と繋いだ手を離す。


 外靴から上履きに履き替える。


 同時にメモを靴箱から見つけた。


 四つ折りにされた紙媒体だ。


 この電子社会で古風な。


 そう言えば先日の秋子への告白も呼び出しそのものは紙媒体だったね。


 流行ってるのかな?


 ともあれメモ用紙を広げて見る。


 書かれていたのは仮設ルームアドレスと指定時間だけ。


 仮設ルームは瀬野三のローカルエリアネット内に構築されたもの。


 指定時間は昼休みだった。


 メモ用紙を秋子に見つからないようにクシャッと丸めてポケットへイン。


 それから量子に頼んで悪意干渉の有無を捜査。


 プログラムを奔らせた後、


「白か」


 安全と確認して僕はとりあえずこの思考を放棄した。


 すると、


「あう……」


 と秋子が恥ずかしがる。


 何でさ。


「なんで雉ちゃん……今日の私の下着の色を知ってるの?」


 白なんだ。


「僕は何でも知ってるのよ」


 オホホと笑ってやる。


「……見る?」


 秋子が灰色のスカートの端を少しだけつまみ上げる。


「嫌」


 一刀両断。


「淡白だね」


 否定はしない。


 別に女に興味が無いわけじゃないけど……、


「だって、ねえ?」


 秋子だし。


 幼馴染であることも手伝って慕情を持てようはずもない。


 たまに流されるのも一興かと考えることもあるけど、秋子のためにならないと戒めている。


 秋子には僕を諦めてもらわねばならない。


 かといってソレは容易いものではなく、


「千里の道も一歩から……か」


 そういうことになるのだった。


 まったくもって業が深い。


「あ」


 と秋子が目を白黒させる。


 それから指揮者の様に指を振るう。


 おそらく視界に映っているイメージウィンドウを操作しているのだろう。


 しょうがないから僕は秋子の空いてる手を握って教室まで引っ張った。


 それがまた人視を招いて……。


 やっぱりこれは宿業。


 やれやれだ。


「雉ちゃん」


「なに?」


「告白されちゃった」


「そ」


 今更だ。


 なんといっても面貌もスタイルも性格も良い。


 ブラックシルクの様に艶やかなロングストレート。


 ブラックパールの様に煌びやかな瞳。


 錬金術でも「こうはいかない」と言わんばかりの容姿。


 突き出た胸とお尻に引き締まった箇所箇所。


 何よりも僕に一身に尽くしてくれる辺りに大和撫子的魅力を感じさせる。


 秋子に惚れられるということがどういうことなのかが如実にわかる一例だ。


 で、あるため秋子は入学早々に瀬野三の男子生徒の話題をかっさらっていった。


「どうしたらいいかな?」


 それを僕に聞くのん?


「何が言いたいかはわかるよね?」


「うー……」


 秋子は不満げだ。


「そうだけど」


 理解しているなら宜しい。

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