第46話フラグ交差点1


「むにゃ~」


 僕はヒュプノスの呪いと戦いながら、毎度毎度の秋子の用意してくれた朝食を食べる。


 もむもむ。


「学校行きたくないよ~」


 ぼやきながらもむもむ。


 ちなみに今日の朝食は、おかか御飯と卵焼きと水菜のサラダとわかめの味噌汁。


 それをもむもむ。


「学生なんだから学校行かなきゃ」


 とこれは秋子。


 濡れ羽色の長髪は今日に限ってポニーテールにしており、それはそれでまた違う趣がある。


 是非とも体操服(なるたけブルマ)を着用してほしい。


 ……ま、僕がお願いすれば叶えてくれるだろうけど、面倒だから言ったりはしないんだけどねん。


「御飯美味しい?」


 秋子はニコニコ顔だ。


 ちょうど座高とテーブルの高さがジャストフィットしており、


「よっこいしょ」


 という感じで大きな乳房がテーブルの端に乗せられている。


 六根清浄六根清浄。


 その胸のわきで両肘をつき、ネルフのお偉いさんの様に口元で両手を結んで、手と腕とテーブルで台形を作って上目遣い。


 可愛い。


 意図してない辺りも加点のポイントだ。


 さてさて、


「秋子~」


「はいはい?」


「コ~ヒ~」


「はいはい」


 勝手知ったるとばかりにキッチンへと消えていく秋子。


 ちょうど僕が朝食を終えた辺りで、秋子がコーヒーを持ってきてくれた。


 ホットのソレ。


 当然無糖。


「雉ちゃん雉ちゃん」


 何でがしょ?


「今日の登校は腕を組まない?」


「今日はちょっと引き籠る」


「駄目だよ! 学校行かなきゃ!」


「それについては土井春雉に頼むから問題ない」


「むぅぅぅ……何するの?」


「昨夜ちょっとプログラム組んだからソレの確認」


 淡々と言ってのけた。


 僕は視界に今日のニュースを見ながらコーヒーを飲む。


 うむ。


 美味い。


「お……」


 気になるニュースを見かけた。


「どうかした?」


 小首を傾げられた。


 当然秋子。


「大日本量子ちゃんのニューシングル……『ラプラスの天使と悪魔』がオリコン一位だってさ」


「量子ちゃん頑張ってるね」


「だね」


 僕と秋子にしてみれば気が置けない友人だけど、世間的には日本を代表するトップスターなのだ。


 そのギャップは未だに慣れない。


 まぁおかげで食うに困らない分の仕事を回してもらっているため、ケチをつけるわけにもいかないんだけど。


「雉ちゃん? 量子ちゃんのこと考えてるでしょ?」


「駄目?」


「嫉妬するよ」


「大罪の一つだよ?」


「日本においては意味を為さないよ」


 ですよねー。


 コーヒーを一口。


 うん。


 美味しい。


「量子ちゃんは架空存在だよ?」


 知ってるよ。


「たまに雉ちゃんが傾倒しないか不安になるな」


 でっか。


「大切な人ほど傍に居るんだよ?」


「例えば秋子とかね」


「ふえ……!」


 秋子は顔を真っ赤にした。


 自分から振った癖に……。


 多分僕が知らないふりをするだろうと思っていたのだろう。


「ふ……」


 甘い。


 コーヒーを一口。


 苦い。


 そしてコーヒーを飲み干す。


「じゃあ制服に着替えてくるよ」


 そう言って僕は席を立った。


「むぅぅぅ。本当に春雉に任せるの?」


「残念だね」


「だよ」


 そう言ってコーヒーカップを回収してキッチンに消える秋子。


 寝室に戻ると制服が用意されていた。


 シャツなんかは丁寧にアイロンまでかけられて。


「秋子には頭が上がらないなぁ」


 だからってほだされる僕じゃないんだけど。


 ともあれ着替えだ。


 シャツ、パンツ、ネクタイ、ジャケット。


 それぞれを着て靴下をはく。


「じゃ、後はよろしく」


「任されたよ」


 僕の委任に春雉は快く引き受けてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る