第158話パーフェクトコピー5


「この時のグラフですが……」


 数学の授業を受けながら、僕はボーッとしていた。


 つまらない。


 情報構築には、数学が必須だ。


 そして人工知能に精通している僕にとっては、中学の数学は、既に獲得している能力だ。


 そんなこんなで、時間の空費をしていると、


 ピコン。


 そんな電子音が鳴った。


 視界モニタに、チャット画面の認証可否を問うウィンドウが現れる。


 アリスからだった。


「今暇?」


 そんな文章。


「暇だよ」


 そんな返答。


 実際は、授業が行なわれているのだけど、冗長だった。


「ウィータは今何してるの?」


「だから暇してる」


 そう綴った後、


「一応のところ学業」


 と付け加える。


「ウィータに学業って必要あるの?」


 アリスの意見も、もっともだけど、


「ま、義務教育ですから」


 日本のしがらみだ。


 というか、だいたいの国において、そうなのだろうけど。


「アリスが教えてあげよっか?」


「間に合ってます」


 これは本音だ。


 まぁ、アリスのパーフェクトコピーは、知識欲旺盛だから、僕の知らないことをいっぱい知ってるんだろうけど。


「なら家に来なよ!」


「授業中つっとろーが」


「サボれば良いじゃん」


 何が良いんだろう?


「というわけで却下」


「ウィータァァァ……」


 気持ちが分かるだけに、なんともね。


「まぁお喋りの相手くらいなら努めるよ」


「じゃあウィータに好きな人って?」


「…………」


「いるんだ!」


「まぁね」


「両想い?」


「さあ?」


「さあ……って」


「脳情報は構築できても、心を読み解くことは……出来ないから」


「納得。ニューロンマッピングを弄って、両想いにしたら?」


「電子法違反。確実に少年院行き」


「その時は、お爺様のお膝元に駆け込めば良いじゃん」


「借りを作るのも……ね」


「そんなこと言ったら、お爺様は、返そうとしても返しきれない恩を、ウィータに感じてるよ?」


「知ってるけど、コレは僕の心の問題」


「むぅ」


「アリスは、僕が財閥に帰順してもいいの?」


「だから誘ってるんだけど。なんならウィータの想い人も一緒でいいよ?」


「ま、期待しないで待ってて」


 サクリ、と、言ってのける。


「むぅ」


 と唸るアリスだった。


 そんなこんなで、数学の授業は終わった。


 さて、昼休みだ。


「雉ちゃん」


 いつも通り、二人分の弁当を携えて、秋子が近寄ってくる。


 愛らしいのは事実だ。


 だからって、ソッチに天秤が傾くことはないんだけど。


「業が深いなぁ」


 そんな事を思っていると、校内放送があった。


「土井春雉くん。土井春雉くん。校長室までお越しください」


 ん?


「雉ちゃん何かしたの?」


 心当たりは無いんだけど。


 説教されるなら、生徒指導室だろう。


「とまれ昼食にしよう」


「いいの?」


「まずは食事優先。別段すぐに来いとは言ってないのは向こうの落ち度」


 そう言って、秋子の机に置いた重箱から、おにぎりを取り出して食べる。


「また公爵の件?」


「多分違うと思うなぁ」


 さっきまでアリスと話してたけど、そんな前兆は感じなかった。


「じゃあ何だろ?」


「さぁね」


 僕は唐揚げを咀嚼、嚥下する。


 そんなこんなで秋子のお弁当を堪能した後、秋子の用意したお茶を飲んでまったり。


 昼休み終了まで、後五分を切ったところで、校長室に赴いた。


「失礼します」


 名乗り、ノック、挨拶をした後、許可を得て僕は校長室に入った。


 中では校長先生の他に、スーツ姿のサラリーマンが待機していた。


「遅い登場ですね」


「昼食取ってましたから」


 あえて悪びれない。


 というか気にかけることでもない。


「ええと……。それで何の用でしょう?」


「ミスターパーフェクトコピーに用がある」


 あ。


 嫌な予感。

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