第155話パーフェクトコピー2


 そんなわけで、イギリスに来てしまった。


 パスポートを持っているわけでもないのに、空港はシャンシャンで通り、違法行為として、イギリスの地を踏む、僕こと土井春雉。


 案内人は、校長室にいた紳士では無く、オフィスレディ姿の大人の女性だった。


「ミスター。何かご入り用はあるでしょうか?」


「特にないかなぁ」


 ぼんやりと答える。


 異国の地を踏んだのは初めての経験だったけど、どうやら断るわけにはいかなかったらしい。


 公爵、と呼ばれる存在に、招かれたのだから。


 イギリス……というか世界最大の財閥で、ありとあらゆるところに権力の枝葉が伸びている、と先導役の淑女さんから聞いた。


 それで……そのお偉いさんが何の用?


 口にはしないけど。


「公爵は何でもミスターを欲しているとか」


「特に提供できる物は無いんだけど……」


 やはしガシガシと、頭を掻いてしまう。


 それからリムジンの迎えに乗って、公爵の邸宅へ。


『豪邸』


 と聞いて思い浮かぶ一般的な豪邸の、十数倍の規模を、想像して貰えれば幸い。


 公爵の豪邸は、下手をすれば、並みの城より規模がでかかった。


「お金持ちなんですね……」


 気圧されて言うと、


「世界のトップです」


 淑女は、誇りと共に、そう告げた。


 ますます僕の中の疑問は、膨らむばかりだ。


 そんな、命さえ金で買えてしまえそうな、世界のトップが、僕に何の用でっしゃろ?


 口にはしないんだけど。


 荘厳な扉に出迎えられ、重々しく開いた先には、完璧に手入れされた庭。


 その中を、リムジンが進む。


 しばしの時間、手入れされた庭を見ながら、僕はリムジンに揺られていた。


 玄関から本邸まで、車で数十分かかるというのだから、敷地の広さが窺える。


 ベタな金持ちの邸宅例……とも言える。


 で、屋敷に着くと、僕はリムジンを降りる。


 淑女さんに導かれて、屋敷に入ると、多数の使用人の列に、出迎えられた。


「「「「「いらっしゃいませミスター」」」」」


 声を揃えて、慇懃に頭を下げられる。


 練習したんだろうか?


 そんなことを思ってしまうほど、一糸乱れぬ統率だ。


「ああ、ども」


 緊張して、逆に不敬な返事になってしまう。


 というか、小学六年生に、なんていう経験をさせるんだ……。


「公爵がお待ちです。どうかご面会くださるよう」


 流暢な日本語を話す使用人が、そう言った。


「はあ」


 他にどう答えろと?


 それから客間に通されて、公爵と面会する。


「土井様は、お飲み物にリクエストはございますか?」


「チョコレート」


「承りました」


 そして使用人は、去って行く。


 残されたのは、僕と公爵。


「初めまして。土井春雉っていいます」


 緊張のあまり、ペコペコと、頭を何度も下げる。


「急に呼びつけて済まなかったねミスター。本来なら私が出向くのが筋なのだろうけど、どうにもこうにもこればかりは」


「恐縮です」


 一礼。


「ミスター土井春雉。春雉と呼んでも?」


「構いませんが……」


 そして公爵に指示されて、円テーブルの対面に座る。


 公爵は、柔和に目を細めて、


「来てくれて幸いだ。私は春雉に用があった」


 まぁ、小学生を、無理矢理イギリスまで拉致って「何もなし」では、そっちの方が問題だけど。


 使用人が現れて、僕と公爵に、チョコレートを振る舞い、退室する。


「あの……。で、僕に何の用でしょう?」


「春雉はオーバードライブオンラインをプレイしているね?」


「です。それが何か?」


「君の素性は失礼にならない範囲で調べさせて貰った。結論として君のオーバードライブオンラインのプレイ時間と君の生活サイクルとは矛盾する」


「…………なんでバレてる?」


「私の資本……その会社の子会社の子会社がオーバードライブオンラインの運営に一枚噛んでいてね」


 持ち株会社の子会社の子会社ですか……。


 壮大なことで。


「君はチートを使っているだろう」


「あら、バレてます?」


「運営は問題にしてないよ。ただし君のプレイ時間は日本の小学生にしては……ありえない」


 ま、実際その通りだしね。


「君は君の……つまり土井春雉のコピー人格を作って、オーバードライブオンラインのプレイを、肩代わりさせているだろう。しかも運営さえ欺いて」


 そうですけど。


「私は、土井春雉に接触して、フォークトカンプフテストを試した。結果、人間と判定した」


「えーと……つまり……?」


「率直に聞く。誤魔化しは不要だ。君は、クオリアを持った人工知能を構築できるね?」


「あ、はい」


 チョコレートを飲みながら、あっさり肯定。


 というか、否定してどうなるものでもないのが事実だ。


「そんな春雉にお願いがある」


 深々と、公爵は礼をする。


「あ、頭を上げてください公爵……!」


 あわあわと慌てる僕……ヘタレだ。


「それで何をしろと?」


「私の孫と会って欲しい」


「お孫さんと?」


「ああ」


 公爵の目は、真剣その物だった。


 孫ねぇ。


 それが、僕と、どう繋がるのだろう?

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