第154話パーフェクトコピー1


 小学校六年生の時。


 僕は、電子世界にのめり込んで、馬鹿になっていた。


 いわゆる一つの、オタク。


 VRオタク、とでも言うべきか。


 チート能力を使って、既にオーバードライブオンラインでのレベルは四百超え。


 地味に、ハイランクプレイヤーの一人だ。


 ご存知の通り、基本的にネットに溺れている以上、性格が捻くれるのは、しょうがない。


 人格が、摩耗しきっていた。


 僕ながら、業が深い。


 と、まぁ自虐はともあれ、僕は今日も今日とて、小学校に通う。


 中学までは義務教育であるため、どうしても通わねばならない。


「いってきます」


 と、紺青さん家のご両親に、挨拶をした。


「いってきます! お父さん! お母さん!」


 秋子さんも、元気よく言った。


 同じ小学校に籍を置いている身……故に向かう先も同じである。


 両親がいなくなったので、それからは紺青さん家で朝食をとって、秋子と一緒に登校する。


 それが習慣となった。


 秋子は秋子で、僕に惚れこんでいるため、


「雉ちゃんのため」


 と、称して、おばさんから料理を……というか家事全般を、習っている。


 紺青さん家のご両親は、子どもの業の深さを受け入れて、なお僕と結ばれることを望んでいるのだった。


「いいのかそれで?」


 そうは思うが、仮に紺青さん家のご温情が無ければ、僕は一週間で餓死していただろう。


 親戚の類は当てにならないため、一人では広すぎる一戸建てに、ひっそり住むのが僕の日常。


 既述、VRオタクである。


 故に家事全般……というか生きるための術というモノを、僕は身につけていない。


 別に、ホームヘルプロボットや、アンドロイドの類を、賃貸すれば問題無いのだけど、秋子は頑として、


「雉ちゃんをお世話するのは私の役目」


 と譲らなかった。


 愛が重い。


 しかも男と来る。


 基本的に、愛らしいマスクなのだけど、ぶっちゃけた話、男の娘である。


 ニッチなファンが付きそうな、美貌の男の娘。


 男でありながら、ここまで可愛いと、誘拐されても自己責任だろう。


 当人は、


「どうあっても雉ちゃんのお嫁さんになる」


 と、妄言廃棄物を、垂れ流しているのだけど。


 秋子は、


「ねえ、雉ちゃん」


 と機嫌良く言う。


「なに?」


 と僕。


「手を繋がない?」


「……構わないけど」


「やた」


 ハシッ、と、手を握られた。


 春雉秋子結界の前段階。


 構いやしないんだけどね。


 無論のこと、他人は、胡乱げな目で、僕らを見る。


 別段、気にするほどの視線でも無い。


 衆人環視の視線に、何かを感じるほど、後ろめたいこともしていない。


 少なくとも、秋子の存在の方が、その他大勢より価値がある。


 ただし、


「ロマンスを繰り広げるつもりは無い」


 ことを銘記して欲しい。


 健全な恋愛観を、獲得しております。


 異論反論には、聞く耳持ちませんが。


 そうやって、ラブラブ登校して、一端昇降口で分かれると、


「土井春雉くん。土井春雉くん。至急校長室に来ること」


 そんな校内放送。


「あ?」


 と僕。


 ブレインユビキタスネットワークがあるんだから、そっちからアプローチすればいいのに。


 だいたい自我形成くらいの年齢になれば、ブレインアドミニストレータの運用は、視野に入る。


 実際、視界モニタは、正常に作動している。


「雉ちゃん……」


 秋子が、恐る恐ると、僕の名を呼んだ。


「というわけで野暮用が出来たね。一人で教室に行くように。虐められたらいつでもコンタクト取って」


「……うん」


 秋子の一抹の不安に、後ろ髪を引っ張られながら、僕は校長室に出向いた。


「失礼します」


 ノックと名乗りと挨拶をして、校長室に入る。


 全校集会でよく見ている校長先生と、ピシッと三つ揃いのスーツを着こなしているジョンブルが、校長室にはいた。


 ジョンブル……紳士は、モノクルを付けている。


「ご足労申し訳ないミスター」


 紳士は、慇懃に、僕に一礼した。


「はぁ。ども」


 なんと答えて良いのかも分からない。


「不躾ながら、わたくしに時間を割いてはくれませんか」


 本当に不躾だ。


 ちらりと校長を見やると、どうやら紳士に怯えているらしい。


「土井くん。どうか話を聞いて貰って欲しい」


 緊張に震えながら、僕に同意を促した。


「まぁそうしろと仰るならそうしますけど……」


 ガシガシ、と、頭を掻く。


「恐縮です」


 また慇懃に一礼。


「で、何をすればいいんです?」


「イギリスに飛んで貰います」


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