第153話量子と涼子6


「ん……ああ……?」


 ログアウト。


 気づけば、畳部屋に、寝転がっている自分を、再確認。


 隣で寝ていた秋子も、


「ん……」


 と目を覚ます。


 チラ、と視界モニタを見る。


 お盆の夕方だ。


 クゥ、と、お腹が鳴った。


「お腹減ってるんですか?」


「減ってるね」


 お腹の虫が、鳴いたのだ。


「では帰りましょうか」


 時間は夕方。


 日はまだ暮れてないけど、


「やれやれ」


 空は、燈色に染まっている。


「お、起きたかや?」


 寺の坊さんが、声をかけてきた。


「どうも」


 僕は手を示して、


「お世話になりました」


 一礼。


 それに倣う秋子。


「構わんよ」


 お坊さんは、言ってのけた。


「来年も墓参りに来るのだろう?」


「ええ、そのつもりですけど……」


「まぁ死者は死者だが……」


 韜晦する様に、お坊さん。


「忘れない者が居れば死者とて生きた意味はある」


「そうだといいですね」


 苦笑して、僕と秋子は、寺を後にする。


 我が家に帰ると、夏美が待っていた。


「あ、お帰りなさいです」


 ペコリと頭を下げる。


 可愛いなぁ。


 夏美はさ。


「お食事はどうしましょう?」


「簡素なモノで」


 それが、僕のリクエスト。


「では釜揚げうどんなど」


 秋子の言に、


「それでいいや」


 サックリ同意。


「うどん……ですか……」


 引き気味の夏美に、


「大丈夫」


 秋子がフォロー。


「私が教えてあげるから」


 ニコリと、邪気無く笑う、秋子だった。


 そこに、


「きーじーちゃん!」


 量子まで現れた。


「お疲れ量子」


 僕は、アシストを使って、量子の髪を撫でる。


「えへへぇ」


 量子はそれだけで、


「至福だ」


 と云う。


 ちと理解しがたい感情図だ。


「根本的な原因が何を言っている?」


 と言われれば、それまでだけど。


「打ち上げデートしよ?」


 いつもの量子との、宿業だ。


「それは夏美に言って」


 僕は、キッチンに立った、夏美を指差す。


 秋子に、うどんの湯がき方を教えて貰っている夏美が、キョトンとする。


「私ですか?」


 夏美は、


「何故に私?」


 と云う。


「だって恋人だし」


 僕はそう言う。


「夏美ちゃん」


 量子の言。


「雉ちゃんを打ち上げデートに参加させて良い?」


「構いませんけど……」


 ……構わないんだ。


 それもそれでどうよ?


 元より罪深いのは、僕だけど。


 秋子と量子を誑しこんだのは、確かに僕だけど。


 でもさぁ。


 何かさぁ。


「夏美はそれでいいの?」


 聞かざるを得ない。


「ええ、言ったでしょう」


 何を?


「私を愛してくれるのはともあれ……秋子ちゃんや量子ちゃんを蔑ろにしていい理屈にはなりませんよ?」


「夏美はそれでいいの?」


「業と思っていますから」


 それは悲しいね。


 言葉にはしないけどさ。


「そういうわけで」


「雉ちゃん?」


 何さ?


「「私を抱いて?」」


 おととい来やがれ。

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