第96話あなたは涼風の様で3


「うー……」


 雑炊を食べながら、僕は唸った。


 眠い。


 コーヒーで流し込む。


「無茶苦茶するね……」


 秋子は、苦笑していた。


 眠いのだから、しょうがない。


「昨日も遅く?」


「ううん。昨日は速やかに寝たよ?」


「それで寝足りないの?」


「まぁ別に、僕がいなくても、土井春雉がいれば世界は廻るし」


「…………」


 秋子の瞳に、剣呑な色が映る。


「冗談でも言わないで」


「冗談くらい言わせてよ」


「笑えませんよ」


「あははははー……はぁ」


 面白くないのは理解できるけど。


 雑炊をよそって、はふはふと食べる。


 コーヒーを飲む。


 そして秋子にせがむ。


「今日くらいサボらせて?」


「駄目です。というか今日で最期じゃないですか」


 何がって?


 学校の前期工程が。


 要するに今日は終業式で、明日から夏休みに突入する。


 外気温は最高潮。


 太陽さん……有給を取っては如何?


 自然に文句を言っても始まらないけど。


 雑炊をはふはふ。


 それから、今日のニュース番組を見ながら言う。


「量子は頑張ってるね」


「ですね」


 コックリと秋子。


「元が可愛い上に国家レベルでプッシュされれば……そりゃ当たりますよ」


「うん」


 コックリと僕。


「雉ちゃんは、まだ涼子ちゃんのこと……」


「それは無いかなぁ」


 ぼんやりと云う。


 事実だ。


 無益にすぎるしね。


「大切な人ほど灯台下暗しだよ?」


「たしかに量子は大切だけどさ」


「雉ちゃんの意地悪……」


「わはは」


 いい加減諦めれば?


 その一言が、言えない僕だった。


 ニュース番組が、終わりに近づく。


「じゃあまた明日。電子犯罪ダメ、ゼッタイ! BANG!」


 量子が、指鉄砲を撃って終わった。


 そして、


「きーじーちゃん!」


 家の投影機を勝手に作動させて、大日本量子ちゃんが現れた。


 アシストを使って、僕に触れてくる。


「雉ちゃん雉ちゃん雉ちゃん!」


「何ですか何でしょう何でっしゃろ?」


「どうだった?」


「何がよ?」


 雑炊をはふはふ。


「私の活躍!」


「感慨は湧かないなぁ」


 今更だし。


「雉ちゃんの意地悪……」


 それはさっきも聞いた。


 秋子の口から。


「今日で学校終わりでしょ?」


「夏季休暇に入るだけだよ」


 終わりじゃない。


 というか終わってたまるか。


「夏休みは、いっぱい遊ぼうね?」


 僕に頬ずりして量子。


 ちなみに、そう云う信号を受信しているだけで、実際の頬ずりとはまた別なのだけど。


「量子ちゃん! 雉ちゃんは私の!」


「聞き捨てならん」


 と秋子。


「秋子にだけは言われたくないよ~」


「それはこっちのセリフ……!」


 モテる男は辛いね。


 雑炊をはふはふ。


「雉ちゃんは私の!」


「いいや私の!」


「けれども私の!」


「それでも私の!」


 お互いに、所有権を争って、キャンキャンわめくワンコたち。


 まぁ互いに可愛いし、幼馴染ではあるんだけど。


「…………」


 僕は関わらなかった。


「「雉ちゃん!?」」


「…………」


 ノーコメントで。


「今日は一緒に登校しようね?」


 これは量子。


「構やしないんだけどね」


「雉ちゃんは、量子ちゃんの横柄を許すの!?」


「まぁ量子だし」


 他に言い様が無い。


「雉ちゃんの意地悪……」


 それはさっき聞いた。

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