第159話パーフェクトコピー6


 電子犯罪検挙の権限を持つ、アーティフィシャルインテリジェンスによる監視体制。


 そんな国家プロジェクトに、僕が呼ばれた。


「何で僕が?」


 既に、何度目の質問だろう?


 とまれ、聞かざるを得なかった。


「ミスターパーフェクトコピーの能力が必要なのです」


 スーツ姿のエージェントは、一字一句間違いなく、そう何度も言った。


「ていうか何処で僕の事を?」


「公爵に聞きました」


「ははぁ」


 あの野郎。


 サラリとバラしやがって。


「で、僕は何をすればいいんです?」


 ちなみに、僕が今居るのは、巨大なハードの並ぶ空間だった。


 とある国家施設の地下に設置された電子空間。


 一般的な中学生が、居て良い空間ではない。


「帰っていいですか?」


 コレも今更だ。


「困ります」


 サラリーマンは、そう言った。


「なして?」


 他に言い様も無い。


「土井さんの技術が必要だからです」


「と云われても……ねぇ?」


 頭をガシガシと掻く。


「で?」


 とこれは僕。


「何をすれば?」


 一応、事前に説明は受けたが、それでも皮肉として言葉に出た。


「先にも言ったように、電子犯罪検挙システムに、アーティフィシャルインテリジェンスを植え付けたいのです」


 それは聞いた。


「適当にでっち上げれば?」


「それも一案ですが、有機的な思考をするアーティフィシャルインテリジェンスを構築できるのは、土井さんしかいないもので……」


 良いように使い倒される、と。


「別に僕が出張る必要は無いはずなんですが」


「やはりキャラクターとしての記号は必要かと」


「電子犯罪監視システムにアイドル性を?」


「そういうことです」


 コックリ、と、頷かれる。


 契約の内容で、我が目を疑い、仕事の内容でリーマンの正気を疑った。


「あー……」


 大丈夫か?


 このプロジェクト……。


「そういうわけで、電子犯罪の抑止力として、アーティフィシャルインテリジェンスを構築して頂きたいのです」


「まぁやれと言われるならやりますがね」


 しかし、契約書にも書いてはあったけど……これだけは言質を取らねばならない。


「おぜぜは出るんでしょうな?」


「それはもう」


 なら文句は無い。


「とりあえず…………アーティフィシャルインテリジェンスを植え付けるアバターを、見せて貰えますか?」


 僕が問うと、


「これです」


 と、リーマンが、アバターを映し出した。


 ピンク色の髪に、ピンクのフリフリロリータファッションの女の子…………なんてアバターが出てきた。


「却下」


 即決する僕。


「駄目ですか?」


「狙いすぎ」


 お役所仕事……という奴の本質を見た気分。


「ではどうすれば……」


「ん~……」


 と悩んだ後、


「ま、確認を取ってるから良いか」


 と呟いた。


 その場で、モデリングして、出来上がったアバターを見せた。


「黒髪の女の子……可愛いですね」


 僕の初恋の人だからね。


「やっぱり日本を代表するんだから、黒髪がデフォでしょ?」


「言いたいことはわかりますが……」


「これなら容姿も判断も一級だろうし」


「そこまで……」


 唖然とするリーマン。


 国家プロジェクトならば、売り出すのは容易い。


 そして、この女の子は、抜群に魅力的だ。


「この子を電子犯罪の監視システムに据え置かないなら協力はしない」


 拗ねたふりをして、僕は言う。


「ええ」


 と、リーマンは、頷いた。


「こちらでも全然構いません」


 とりあえず納得して貰ったらしい。


「じゃ」


 と僕。


「ちゃっちゃと始めますかね」


 そう言って、僕は、イメージキーボードとイメージウィンドウを展開する。


 当人に、許可は得ている。


 であれば後ろめたいことはない。






「死にたくないよ」






 そんな、か弱い女の子の声が、聞こえた。


 一瞬を永遠にする。


 そのためには、此度の国家プロジェクトは、都合が良い。


 初恋の君を、お茶の間に浸透させる事が出来るのだから。


 思考とタッチで、プログラムを組んでいく。


 そこに自我変数を加える。


 結果として、志濃涼子はここに具現された。

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