第129話儚い夢の痕6


「キャー!」


 とか、


「イヤー!」


 とか、


「来ないでー!」


 などと叫びながら、銃を乱射するミツナ。


 墓場エリア。


 そのクエストフィールド。


 地面から、のそのそと生まれいずる、無数の死者たち。


 無双ゲー故に、雑魚キャラはまったく強くないのだけど、それでも無数のホラーモンスターが現れれば、耐性の無いミツナには失禁モノだろう。


 しかし恐怖心が、上手い具合に攻性感情に転換されているため、決して足手まといにはなっていない。


 というか……トリガーハッピーとなって、一番攻略に貢献している。


「ある種尊敬できるね」


 魔法を撃ちながら、コキアは呆れているようだった。


 ミツナの、言ってる事とやってる事が、違うのだからしょうがない。


「にゃはは」


 シリョーは、グロウランスで、デッドモンスターを刺殺し続けていた。


 僕?


 ゆっくりフィールドを歩きながら、襲い掛かってきた敵を、グラムで討ち滅ぼすだけ。


 一応、ゴールは決まっているため、急ぐ必要もない。


 なお僕ら四人(スミスはいない。念のため)は、超過疾走オーバードライブシステムが最大値であるから、雑魚に後れを取ることもない。


 というか、ファーストの墓場エリアなら、ボスキャラさえも退屈だろうけど。


「イヤー!」


 タタタタァン!


「…………」


 パパパパッ。


「あはは」


 ざくざく。


 かしまし娘は、雑魚敵を目に見えた端から殺していき、ボスエリアと相成る。


 とはいえ、ボスエリアにも、基本的に雑魚は湧くんだけどね。


 ボスはヴァンパイアだった。


 この情報は、既に共有している。


 ヴァンパイアの、超過疾走具合は二倍。


 おそらくミツナとコキアだけでも、屠れるだろう。


「急かずに結果をご覧じろ……か」


「だね」


 僕とシリョーは、肩を並べて、ミツナとコキアを眺めた。


 銃声が鳴る。


 大火がうねる。


 空気の壁が壊される。


 爆発音が鼓膜を叩く。


 銃と魔術のスキルが、次々と繰り出される。


 瞬く間に、ヴァンパイアのヒットポイントが減っていく。


 雑魚キャラも沸くけど、スキルの余波で死んでいく。


「にゃはは。コキアちゃんもミツナちゃんも慣れてきたね」


 シリョーの言葉に、


「だね」


 と頷く。


 初めの頃の、ゴブリンに怯えていたことが懐かしい。


 習うより慣れろ……というか。


 あるいは古人の糟粕か。


「チェインボム!」


 コキアが、ボイススキップで、スキル名を叫んだ。


 名の通りの連鎖的な爆発が起こる。


 ヴァンパイアを中心に、周囲の雑魚が一掃される。


 威力自体は低いスキルだけど、密集した雑魚を狩るには、結構使い出があるスキルだ。


「ダムダムショット!」


 貫通能力を失う代わりに、高威力を約束するスキルを、ミツナが叫ぶ。


 ちなみに、一般的な銃弾の速度の十倍。


 ヴァンパイアに避けられるはずもない。


「ガッ!」


 ダメージに、のけ反るヴァンパイア。


 さすがにレベル相応のボス相手に、スキルの一つや二つ撃って、殺されたらかなわない。


 とはいえ、さすがの十倍速。


 銃弾と魔術の嵐が、容赦なくガリガリと、ヒットポイントを削る。


「鬼畜だね~」


 シリョーがくっくと笑う。


「だったらサックリ殺して来ればいいんじゃない?」


 ヴァンパイアの攻略を提案すると、


「いーや」


 あっさりと、シリョーは却下した。


 そして僕の手を握る。


 仮想の温もりが、感じられる。


 電子世界でならば、量子シリョーにも人同様の温度があるのだ。


「こうやってハイドちゃんを独り占めできなくなるから」


 さいですか。


「グッと来た?」


「忌憚なく言えば」


「ふえ?」


 ポカンとした後、


「ふやや……っ」


 顔を赤くするシリョー。


 甘い甘い。


「いつまでもこっちが知らんぷりすると思ったかな?」


「うう~……」


 赤面したまま唸る、シリョーであった。


「あったかいね」


 ギュッと、シリョーと繋いでいる手を、強く握る。


「あう~……」


 ますます真っ赤になるシリョー。


「雉ちゃんはズルいよ」


 ネットリテラシーを守るように。


 ペチッとチョップ。

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