第92話あなたは太陽の様で5


「今日はこれまで」


 ということで、学業は御開き。


 今日は、ちゃんと起きてます。


 ウェストミンスターチャイムが鳴る。


 この辺りは、古典的だ。


 阿っている、というより、変更する意義が見いだせないだけだろう。


 耳に残る短い音楽としては、これに勝るは無いしね。


 で、しばらく待つ。


 釣り堀で竿を垂らしてる気分。


「雉ちゃん雉ちゃん」


 ほら。


 秋子が食いついてきた。


「なぁに?」


 なるたけ爽やかに、笑ってみせる。


「夕食は何がいい?」


「お好み焼き」


 即答する。


「おまかせ」


 と言うことも出来るけど、今日はお好み焼きの気分だった。


「はいはーい」


 秋子は嬉しそうに受諾。


「春雉」


 あら?


 もう一匹釣れたよ?


 信濃さん家の夏美さんだ。


「なぁに?」


 なるたけ爽やかに、笑ってみせる。


「放課後は暇ですか?」


「優先すべき予定はないね」


「じゃあ遊びに行かない?」


「クーラー効いてる場所でしょうか?」


「茶店」


「僕は構わないけど……」


 チラと秋子を見やる。


「…………」


 何かを訝しがる表情だった。


 気持ちはわかる。


「秋子もそれでいい?」


「はあ」


 曖昧模糊とした肯定。


 さてさて、


「じゃあ行きますか」


 そんなわけで、喫茶店に向かうことになった。


 あまりに暑いので、ランドアークシステムを利用して。


「夏美は喫茶店とかよく行くの?」


「友達いないから必要ないですよ?」


「今はいるから足が向くってわけだ」


 僕が苦笑すると、


「それとは……違うんですけどね……」


 夏美は寂しげに、微笑をたたえた。


「…………」


 眉を寄せてしまう。


 ある程度、表情で感情が読める僕だけど、此度の夏美の微笑は、意味不明で意図不明で意思不明だった。


 が、雑事と切って捨てる。


 喫茶店に辿り着くと、着席して、紅茶を注文する。


 支払いは、もちろんネットマネー。


 有り余ってるから、僕の奢りだ。


 驕りとも言える。


「そう言えば量子ちゃんは?」


「仕事中」


 たしか今は、ドラマの撮影のはずだ。


 人間と寸分たがわないアーティフィシャルインテリジェンスの存在によって、ある種の古典意識の持ち主でもなければ、役者は立体映像でも気にしないのが世の理。


 特に、大日本量子ちゃんが主演ともなれば、高視聴率は獲得したも同然だ。


 紅茶を飲む。


「いろいろ大変なんですね」


 毒にもならない言の葉を紡ぐ夏美。


「ま、当人がイケイケだから気にすることでもないよ」


「どうやって知り合ったんですか?」


「面白くないソレだから話したくない」


「あ、ごめんなさい……」


 察したらしい。


 助かる。


 茶を飲む。


「春雉。私も秋子ちゃんの奉仕を受けてもいいですか?」


 僕に聞かないで。


 ていうか、


「どゆこと?」


「秋子ちゃんのお好み焼き食べたいです」


 でっか。


「秋子は大丈夫?」


「構いはしないよ」


 さくっと答えられる。


 さすがに、一家に一台秋子ちゃん。


 炊事に掃除に洗濯に。


「ありがと」


 秋子に向かって、はにかむ夏美だった。


「春雉もね」


「別に僕は何もしてないししないけど」


「口添えしてくれたでしょ?」


「そういう解釈はどうかな?」


「春雉らしいですね」


 どういう意味だっ。


「ところで今日のオドはどうします?」


「そうだねぇ……」


 そこそこ育ってきてるコキアとミツナだ。


「ローマエリアにでも言ってみる?」


「ローマですか」


「そ」


 全ての道が通ずる場所です。

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