第172話光と影を抱きしめながら1


「お~……」


 僕は、鏡の前で、自分を見ていた。


 死滅した細胞を、活性化細胞に取り替えて、癒す。


「フランケンシュタインの怪物か」


 とも思ったけど、


「普通に普通だね」


 結局、いつも通りの僕に、回復していた。


 医学万歳。


 火傷の痕が、綺麗さっぱり無くなっていた。


「問題は」


 意識が、二つ有ることだ。


 元々……こっちは、オドのバックアップから独立した自我。


 あっちは脳に存在する自我。


 意識が二つせめぎ合う……というほどでもなかった。


 同一意志の重ね合わせ。


 まったく同じ意志同士なので、優先順位まで同一だ。


 結論として、コクピットの運営は重ね合わせになった。


 何と言えば良いのか。


「二つの意志が、それぞれに肉体を動かしながら、それでも破綻せず動かせる」


 とでもいうのか。


 二人三脚が有機的に運営されている。


 便宜上、僕はこれを、


「双子システム」


 と名付けた。


 どちらともに意識を表在化し、けれど破綻しない意志誘導。


「くあ……」


 理論はともあれ、こうやって生き返ったわけだ。


 それは欠伸も出る。


「雉ちゃん!」


 涼子が声を掛けてきた。


「調子はどう?」


「すこぶる快調」


 嘘ではない。


 むしろ積極的に本音だ。


「涼子にも肉体あげようか?」


 レプリカントなら造れる。


 公爵の力を借りれば。


「いまはいいかな?」


「君がソレでいいならいいけどね」


 こっちとしては無理強いもしない。


「雉ちゃん。朝だ……よ……?」


 もう一人の幼馴染みも健在だ。


 火災で家をなくした幼馴染み。


 火災保険で、なんとか新築を建て直せたとか。


 それは僕も同じだけど。


 突貫工事で、家を新築し、漸く何時もの日常が帰って来た。


「今日は早いね」


 秋子は、目をパチクリ。


「こんな日もある」


 にゃむ。


「大丈夫?」


「無論」


「痛いところとか」


「エル・プサイ・コングルゥ」


「そういう痛さじゃなくて」


 知ってる。


 とはいえ、秋子の心配もご尤も。


「大丈夫だよ」


 ポンポンと頭を叩く。


「あう……」


 借りてきた猫のように大人しくなる。


「っ」


 二人の僕が苦笑する。


「あまり気にしないで」


「無理だよぅ」


 然もあらん。


 秋子の心配性は、今に始まったことでもない。


 とりあえずは、


「無事で良し」


 だろう。


「私は雉ちゃんを助けられなかった……」


「家族で外出してたんだからしょうがないって」


「しょうがなくない」


「それについては」


 秋子のほっぺたを、摘まんで引っ張る。


 ブルドッグ。


「後の議論としよう」


 非生産的なこと甚だしい。


「誰が正しい」


 とか、


「誰が悪い」


 とか、そんなことは聞きたくない。


 そんなカテゴリーに押し込めて、


「損……をしたくないんだよ」


 きっと秋子だって、いっぱい悩んだ。


 意識不明の僕を、病的に見つめていた。


 あえて姿は現わさなかったけど、


「だからこそ」


 だからこそ、その様子は胸を衝いたのだ。


「で、今日の朝ご飯は?」


「お茶漬け」


「良かれ良かれ」


 きっと。


 そんな何でも無いようなことが、


「幸せだ」


 って思うから。

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