第171話データイーター6
アリスの自我を組み上げた後、僕の入院している病院に、最先端技術を持つ医師が集結した。
ドリームチームだ。
公爵の政治力の恐ろしさよ。
全身に二度の火傷。
普通は死んでいる。
あえて生きているのは、
「意味があるのか何なのか?」
自分でも判断が付かない。
ここ数十年で、人体マップの解析も進み、金とコネさえあれば、最新の医療を受けられる。
公爵が正にソレだった。
土井春雉。
その焼死体。
……いや死体じゃないんだけど。
ともあれ重病人を直すために、ヨーロッパの医者が集結するのだった。
僕と涼子は、ソレをゴッドアイシステムで見ていた。
「ありがとね」
その隣に立つアリスの頭を、クシャクシャと撫でる。
「ミスターのためだもの」
自我を取り戻した投射体は、嬉しそうに笑った。
「そのミスターってのやめない?」
「じゃあウィータ!」
「ウィータ?」
「『命』って意味」
「じゃあそれで」
「本当にありがとね?」
「嬉しい?」
「うん。まぁ。人並みには」
でっか。
「ウィータは?」
「さて」
自分が死ぬ。
まさに今の僕だ。
「きっとウィータは大丈夫だよ」
――まだ間に合う。
アリスはそう言う。
「それは」
「何?」
「なんでもにゃ」
言葉を濁した。
少し失礼になる気がして。
両親も涼子も死んだ。
――僕一人、生き返って、いいのだろうか?
「雉ちゃんの考えてることは読めるよ?」
「さいでっか」
そりゃ長い付き合いだし。
「私は私で何とかするから」
「そりゃ重畳」
「アリスも頑張るよ」
それも頑張れ。
治療はハイスピードで行なわれた。
生命維持装置を付けての手術……というより縫合か。
生きている活性化細胞を死滅した細胞と取り替える。
そんなことが三日続いた。
「ん――」
ピクリ、と、僕が痙攣する。
「…………」
それを僕が見る。
こっちにいる僕。
あっちにいる僕。
ガラスを挟んで反対側。
「もう大丈夫ですよ」
医者は保証してくれた。
それもそれでどうだかな。
「涼子も助けられれば良かったのに……」
「助けてもらったよ」
「意識だけね」
「だから大丈夫」
「そう?」
「そう!」
グッとガッツポーズ。
「雉ちゃんとセックスなんて何時でも出来るし!」
「しないけどね」
「なんでよ~……」
「こっちの台詞……なんだよねぇ」
どうにもこうにも。
「ウィータもお姉ちゃんも可愛いね」
「良い性格はしてるよね」
「ウィータが?」
「涼子が」
「雉ちゃんも!」
はいはい。
「で、何をするべきか?」
「クラッキング?」
鮮やかに残酷な事言うね。
アリスは。
「クラッキング……」
涼子も意味深。
「たしかに、いまは僕が原点だけどさ」
「ならいいじゃん」
アリスは軽やかに笑った。
「脳の意識があるならば」
僕は異物だ。
ある種の魂かも知れない。
実際透けるしね。
立体映像ですので。
「ゴッドアイシステム?」
「ま、そうだよねー」
反論の余地もない。
事実は事実。
だからわからなかった。
本当に『ソレ』でいいのか。
正しいのか。
誤っているのか。
あるいは罪科か。
傲慢か。
「案ずるなかれ、だよ。ウィータ」
アリスは気楽そうで羨ましい。
実体験が、そうさせるのだろうか?
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