第62話ちょっとした深刻な変化5
そして今日も滞りなく学校を終えて帰宅。
無論車で。
ちなみに電気自動車。
雨はしとしと降っていた。
今日いっぱいはこの調子だろう。
秋子が茶を淹れてくれる。
梅こぶ茶。
湯呑を傾けて茶を飲む僕。
秋子はキッチンに立っていた。
「雉ちゃん、何か食べたいものある?」
とは下校中の秋子の言葉。
「秋子が作るなら何でも」
とは同席中の僕の言葉。
「じゃあ鍋焼きうどんにしよっか」
そう言って破顔する。
「椎茸は甘く煮てね」
「わかってる」
わかられちゃってるらしい。
と云うわけで鍋焼きうどんである。
僕は梅こぶ茶を飲みながら出来上がるのを待つ。
そんなこんなで、イメージウィンドウをポップして、芸能ニュースなど(主に量子に関するモノ)を見ていると、
「そんなもの見なくても私に直接聞けばいいじゃん」
そんな声が背後から聞こえた。
「…………」
沈黙。
ちょいちょいと僕は、僕の座っているダイニングテーブルの席の対面を、指差した。
「あいあい」
阿吽の呼吸。
立体映像の投影機が、僕のテーブルの対面に女の子を映す。
黒髪ポニテ。
秋子にも夏美にも負けない美貌。
スレンダーな体つきを、ブランド物(立体映像でも使用権は存在する)の服で着飾っている。
大日本量子ちゃんがそこにいた。
「よ」
「よ!」
「で、何しに来たの?」
「理由が無きゃ駄目?」
とは言わないけどさ。
「アイドルが関係ない男の家に来るなんてスキャンダルだよ?」
「関係なくないよぅ」
プクゥと可愛らしく膨れる量子。
フグを連想させる。
この場合のフグ毒は僕なんだけど。
「あんまり秋子ちゃんにばっかり構ってると、いけないんだから」
「何がさ」
とは聞かない。
元より幼馴染だ。
この程度は軽口の範疇。
「仕事ないの?」
「ちょっとスケジュールに空きが出来てね。さすがに学校に姿晒すわけにはいかないから帰宅を待ってたの」
「それはそれは」
光栄で。
梅こぶ茶を飲む。
「量子ちゃん……」
さすがにダイニングからキッチンに声は駄々漏れだ。
「秋子ちゃん。ども。今日の御飯は?」
「鍋焼きうどんだけど……」
「じゃあ量子化して私にデータ送って?」
「そういうことは先に言ってよ……」
と、不満を漏らす秋子ではあったけど、
「ま、いいか」
と予定修正して三人分の鍋焼きうどんを準備し始めた。
こういうところは器用な秋子である。
多分、まず真っ先に出来上がるのは僕の分だろうけど。
梅こぶ茶を飲む。
「アイドル稼業は順調かな?」
僕は意識を量子に向けた。
量子はデータ上のお茶を用意して、
「うまうま」
と飲んでから、
「節税対策が大変だよ~」
愚痴る。
まぁ電子アイドルとしては頂点を極めている存在なのだ。
あらゆるメディアから引っ張りだこで年収は億を超える。
というか元々量子は、ブレインユビキタスネットワークの監視をするための、国家プロジェクトだ。
電子犯罪の抑制を目的としたプログラムであるから、政府とて無視できない存在であり、
「大日本量子ちゃん」
としては日本国の後ろ盾があって成功したようなものだ。
原因の僕が何を言うんだって話だけど。
実際量子にとって金銭は意味を為さない。
湯水のように湧いて出る金の源泉は、全て量子の家と僕に委託される。
僕としてもバイト代になっているから、受け取るに吝かではないけど、量子の両親であるおじさんとおばさんにとっては困惑に尽きるはずだ。
いいんだけどさ。
梅こぶ茶を一口。
「だから今度デートしよ?」
「先約があるんだけど……」
「そなの?」
そなの。
「それじゃしょうがないか」
ですね。
「じゃあ今日は一緒にお風呂に入ろう」
ガシャンと秋子が皿を落とした。
動揺してる動揺してる。
「いいんだけどさ」
他に言い様も無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます