第63話ちょっとした深刻な変化6


 結論。


「美味しゅうございました」


 そして、


「ご馳走様でした」


 鍋焼きうどんを完食。


「どうだった?」


「先に言ったけど美味しかったよ」


「うぇへへぇ……そっかぁ……美味しかったんだぁ……でへへへ……」


 ちとキモく秋子が笑う。


「さすが秋子ちゃん」


 とは量子。


 データ上の食事をとって、


「けぷ」


 と吐息を一つ。


「椎茸の甘煮が特に良かったよ」


「同意見だね」


「……ですか」


 照れ照れ。


 可愛いねこの子。


 抱きしめたい。


 しないけど。


「雉ちゃん。お風呂の準備はしてあるから入っちゃって?」


 あいあーい。


 僕は寝室で着替えを持つと脱衣所に向かった。


 脱衣して浴場に入る。


「やほ」


「…………」


 沈黙するのも無理はない。


 生まれたままの姿の量子が映し出されていたから。


「アイドル失格だよ?」


「雉ちゃんにしか見せないって」


「秋子のひんしゅくを買うよ?」


「許してくれるでしょ」


 そうかなぁ?


 その点においては懐疑的だ。


「ともあれ一緒にお風呂に入ろ? 裸の付き合いって奴さ」


 ちなみに量子の姿は隠し立てしていない女性の裸だ。


 プロポーションもばっちり。


 というか立体映像なので幾らでも改ざんできるんだけどね。


 僕は頭と体を洗って湯船に浸かる。


「ふい」


 うん。


 お風呂はリリンの生み出した文化の極みだ。


「雉ちゃん? 私と良いことしよ?」


「立体映像に言われてもなぁ」


 紛れもなく本音だ。


「電子世界なら幾らでも出来るよ?」


「だから嫌だって」


 何が悲しゅうてセックスの仮想体験なぞをせねばならないのか。


 理解に苦しむ。


 あーだこーだと量子と議論していると、


「し、失礼します……」


 カチャリと風呂場のドアが開いた。


「…………」


「…………」


 僕と量子が沈黙する。


 その声に存分に聞き覚えが有るためだ。


「秋子?」


「はい。秋子です」


 秋子が全裸で浴場に入ってきた。


 ふくよかな胸。


 ひきしまったお腹や二の腕。


 それから……陰毛の生えた以下略。


 量子に続き秋子もまた生まれたままの姿だった。


「なんでそんなに僕を困らせたいかなぁ……」


 慣れてるっちゃ慣れてはいるし、これあるを察して処理しておいたから、股間の僕も反応はしないんだけど。


 うんざりと言って、僕は目を閉じて湯に肩まで浸かる。


「雉ちゃんは私とするの……嫌?」


「とは言わないけどさ」


 でも色々と問題があるでしょ?


「私……墨洲くんが怖い」


 さすがに……その言葉は聞き逃せなかった。


「多分墨洲くんは私に惚れてる」


「だろうね」


 言葉や態度の端々に感じられることだ。


「まぁ秋子は可愛いしね」


 これは量子。


「うん。そうなんだけど……。でも私にとっての王子様は雉ちゃんで……」


 そんな大層な存在じゃないんだけど……。


「だから墨洲くんには嫌悪感を覚える……」


 髪と体を洗いながら秋子。


 そして全身を洗い終えると、秋子は湯船に浸かって僕に抱き付いてくる。


 豊満な乳房が僕の胸板に押し付けられる。


 六根清浄六根清浄。


「雉ちゃん……私を抱いて?」


「無理」


 僕はあまりに勿体ないことを口にした。


「少なくとも僕が土井春雉である限り秋子を抱くことは無いよ」


「雉ちゃんは……残酷だよ……」


 知ってる。


 言葉にするほど無粋ではないけど。


「そもそも秋子は過去を大切にしすぎる……」


「それが私の原点だから」


「私も! 私も!」


 量子も主張する。


 どちらもが僕の幼馴染で……何より問題を抱えている。


 だから、


「気が向いたらね」


 他に言い様が無かった。

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