第140話意外と馴染む生活5
夕食は、寿司と相成った。
ランドアークを使って、行きつけの寿司屋……『大和心』に顔を出す。
秋子と夏美は、引け腰だったけど、気にする僕でもない。
「大将」
「あいよっ」
「寿司三人前。裁量は任せた」
「あいよっ」
個々人で頼んでもいいんだけど、その場合は秋子と夏美が恐縮してしまうため、いっそこうやって、最初に三人前頼んだ方が、面倒が無い。
一つの真理だ。
で、大皿に乗って、寿司がやってくる。
「いただきます」
と、仏教国らしい礼儀作法の元、生命の残滓を、栄養として取り込む。
秋子と夏美も、しぶしぶながら、寿司に口をつける。
「大将!」
「あいよっ!」
「ウニとヒラメと大トロとアワビとイクラ! 全部会計は春雉につけといて!」
そんな無遠慮な声が、唐突に発生した。
ええ根性してんのう。
「えへへ。きーじちゃん」
かっこハートマークかっことじ。
猫なで声で現れたのは、国民的トップアイドル……大日本量子ちゃんである。
「仕事は?」
「超特急で終わらせてきた」
さいですか。
「雉ちゃん。今日の夜デートしない?」
「しない」
「なんでよ~!」
「不義理になるから」
「だから私の事は……気になさらなくていいと……」
夏美の糾弾に、僕とて困る。
「そうは言うけどさ~……」
「夏美ちゃんと秋子ちゃんとはプール行ったんでしょ? なら私とも電子デートでプール行こ?」
「却下」
「き~じ~ちゅあ~ん~!」
「電子デートならオドで良いでしょ。一石二鳥だし」
「あっちはあっちで雉ちゃんのレゾンデートルが問題になるからデートとは一口では言えないよ!」
まぁね。
それっぱかりは、否定できない。
VRMMOに魅せられた者の
「量子ちゃんも春雉スキーですね」
そこ。
爽やかに笑うところじゃないから。
「ぶっちゃけた話、仕事しないで雉ちゃんと一緒に居たいくらいだしね」
電子寿司(造語)を食べながら量子。
「問題は……」
「問題は?」
「コピーペーストすると、同一性が失われることだよねぇ」
「?」
夏美は、クネリ。
そりゃまぁ……事情を説明してないから、わかるまい。
「かといって別の私を一から作られてもそれはそれで悔しいし」
結局そこに行きつくよね。
難しい問題ではあろう。
「大将」
「あいよっ」
「サーモンとヅケマグロとイカ」
「あいよっ」
よくも、自分の因業の話をしながら、寿司を注文できるね、量子は。
別段いいんだけどさ。
気にもせず。
「でさぁ。だからさぁ。私としても状況は状況として捉えるとして……」
グイ、と、データ湯呑の、データ緑茶を、飲み干す。
「電子世界でくらい私が独占してもいいんじゃない……って言いたいわけ。現実世界で接触できないから電子世界でくらい私に雉ちゃんを頂戴よ」
「春雉はどう思ってるんです?」
「精進してくれ」
サクリと言ってのけた。
「まぁそう言うよね……」
量子も、理解はしているらしい。
「でもあの大日本量子ちゃんに好き好き言われて傾倒しないんですか?」
純粋な疑問なのだろう。
夏美が問うてきた。
「畏れ多いよ」
「超嘘つき」
「そんなこと微塵も思ってないくせに」
速攻でバレた。
まぁ永い付き合いだ。
秋子にしろ量子にしろ、僕の思考回路は、手に取る様なのだろう。
それは、逆説的に、僕が秋子や量子を理解することの、証明でもあるんだけど。
そんなわけで、
「秋子は秋子で」
「量子は量子で」
僕に対して、どんな想いを持っているのか、は身に染みている。
その上で、夏美を選んだのは……何だかな。
二人には悪いけど、共依存の関係じゃない慕情と云う物を、僕は欲しているのかもしれない……なんてね。
「…………」
無言で、ガリを噛んで、茶を啜る。
「春雉はツンデレなんですか?」
「今更だね」
茶を飲む。
嚥下して、ホッと嘆息。
「そうでもなきゃ秋子や量子とは付き合えないし」
「もっと素直になったらどうです?」
「どうしろと?」
「私たちをハーレム扱いするとか……」
「あー……」
夏美に対しては純粋に、
「愛してる」
と云えるんだけど秋子と量子はな~……。
「元からハーレムみたいなものだと思うけど……」
大日本量子ちゃん……的確なツッコミをしない。
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