第141話意外と馴染む生活6
結局のところ(総一郎には秘密だけど)……僕と夏美と秋子と量子の同棲生活は、的確なサイクルで、回っていた。
小姑秋子と、嫁夏美。
仕事以外では、よくこっちに顔を出すようになった量子。
たまに馬鹿なことをされ、投射機の機能をオフにし、抗議されたりするけど、そんなのはいつもの事だ。
で、一緒に風呂に入って(ちなみに性欲の処理はトイレで済ませているため女体にも反応はしない様に工夫している)夜の時間。
僕は、オドにログインしていた。
ヴェネチアエリアで、ゴンドラに揺られています。
ゲームマネーは、ネットマネーとは違うので、こちらの出費は痛手にならない。
もっとも、仮にネットマネーでも、痛手にはならないんだけど。
これも、ジキルと量子のおかげだ。
一応、ブレインユビキタスネットワークを通じて、
じゃがバターを、もむもむしながら、今日の予定を立てる。
とはいえ、話すことはそうない。
「セカンドヴェネチアエリアでいいでしょ?」
と云うと、
「はい」
「うん」
「だね」
と、かしまし娘は、頷いた。
「コキアさん。俺のフォローしてくれない?」
「ミツナちゃんに頼んでください」
「いやー、銃はちょっと怖いって言うか……」
「だいたい苦戦するようなレベルじゃないでしょう?」
レベル百越えだもんね。
九百越えの僕が言えた話ではないけど。
「そだ。今度遊びに行かない? 奢るからさ。雰囲気の良い喫茶店見つけたんだよ。行きたくない?」
「特に」
コキアは、相も変わらず、けんもほろろ。
諦めないスミスには、辞世の句を読んであげたい。
介錯は、面倒だからしないけど。
「ハイドちゃん」
とこれはシリョー。
「何?」
「スミスに教えてあげなくていいの?」
「僕の裁量で決められることじゃないし」
「……むぅ」
唸るシリョー。
気持ちは……わかるけどね。
パイオツスキーのスミスにしてみれば、残酷な現実だろう。
かといって、その情熱の火を消すのも、忍びない。
精神的外傷が、検挙の対象なら、僕は死刑でファイナルアンサー。
良くも悪くも、秋子と量子の業に付き合ってるから、起こりうる因果でもあるんだけど。
撥ね付ければ話は早いけど、二人の背景を、とかくよく知っている僕には……あまりに不可能だ。
夏美には悪いし、実際に「ソレ」をこそ夏美は、憂いているのだろうけど……これは僕の魂に根差した問題。
二人の美人の、因果な憂世。
それを否定することも、また出来ないのが、僕と云う存在だ。
実際、夏美はよくやっている。
相思相愛でありながら、僕の環境を十全に把握して、秋子や量子を引き立てる。
その上で、僕から断られたら、黙って身を引く覚悟も、出来ているのだろう。
公爵の家で感じたことだけど、夏美は、泣く姿を他人に見せないタイプだ。
顔で笑って心で泣き、一人になってからメソメソ泣くタイプ……だと予想している。
だから僕は必要以上に、
「夏美可愛いよ夏美」
と言わざるを得ない。
きっと夏美は、不安を抱えている。
それを失くすのも、彼氏である僕の仕事だろう。
「…………」
クシャクシャと夏美……じゃなくて……ミツナの赤いロングヘアーを撫でる。
「な、何でしょう?」
戸惑ったような、夏美の言。
頬が、桜色に染まる。
「まぁ特に意味は無いんだけど」
事実だ。
「一種の愛情表現?」
クエスチョンマークが付いたのは、自分でもとっさの事だったから。
「えへへ」
と、愛らしく、ミツナは恥ずかしがった。
僕の悪戯で、喜んでくれる。
それが僕をして夏美を、
「好きだ」
と叫びたくさせる一因だった。
クレイジーフォーユー。
こんどの電子デートは、山彦の起こる場所に行こう……なんちゃって。
「ほら、ハイドにはミツナさんがいるし。俺の方がよっぽど好きだし」
スミスは変わらず、コキアにアプローチ。
飽きないね君も。
「ハイドちゃん? 仮にコキアちゃんが、スミスに靡いたら、どうするの?」
「うーん。難しい議論だから……青写真が描けないなぁ」
それは一種の難題だ。
数学的にも、物理的にも、量子学的にも、証明が困難な設問と云える。
何せ、秋子が『秋子』となったのは、僕の存在が、前提として在るからだ。
そうでなくなった場合は、ちょっと理解できない。
信頼とはまた違うけど、秋子の情は、僕を以て成り立っている、と言っても過言ではない。
業が深いとは……このことだ。
「さて」
じゃがバターを食べ終えて、
「そろそろクエストにいこっか」
そう提案する。
「コキアさんのフォローは任せろ!」
スミスは前衛でしょ。
心中ツッコむ僕だった。
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