第139話意外と馴染む生活4


 で、朝食を終えると、ランドアークを使って、ほんの少しだけ遠出。


 イコールマリンという、海を再現したレジャー施設に、足を踏み入れるのだった。


 バカみたいに高い気温と、現実として存在する多数の客たちのせいで、入園開始から気持ちが萎える僕だった。


 いっそのこと、VRデートにすればよかったのだろうけど、約束はプロミスだし……夏美の意見を尊重することも、恋人の度量だと自分に言い聞かせた。


 実際にペッタンコな夏美に、スク水はよく似合っているため、愛らしくはある。


 であるから、唯一の救いは、ソレだろう。


「春雉。泳ぎましょう」


 ザザーンと、寄せては返す波。


 イコールマリンと呼ぶだけあって、磯の匂いまで再現してある。


 スキューバダイビングの体験もできるらしく、そういうエリアでは、サンゴ礁も設置されているとか。


 経営精神には感服するけど、その情熱が何処から来るのかは不明だった。


「まぁ泳ぎますか」


 夏美に手を引かれて、僕はプールに飛び込んだ。


 続いて秋子も飛び込む。


 プルンと、二つの果実が揺れて、男性諸氏の注目を計らずも集めることになったけど、当人は気にしていないらしい。


「雉ちゃん雉ちゃん」


 はいなはいな。


「泳ご?」


「そのつもりではあるけどさぁ」


 ちなみに量子はいません。


 仕事だ。


 というか、昼食時のV字水着で一緒するくらいなら、他人のふりをする気であったため、都合がいいと云えばいい。


 当人自身は、僕の気を惹きたくて一生懸命なんだろうけど……いかんせん誘惑の仕方が斜め上だ。


 というか僕が自身で設定しておいて、こんなこと言ったら本末転倒かもしれないけど、僕に惚れてもしょうがない気がして仕方ない。


 言わないけどさ。


 で、ペッタン子ときょぬ~っ子の、スーパーSクラス美少女と一緒に、プールを楽しむもやしっ子がここに一人。


 泳ぎは、ある程度出来るんだけど、体力が伴わない。


 こういう時、VRオタクの自分に、客観的失望を抱く。


 VRゲームのおかげで、肉体の自主操作の方法論は確立しているけど、そこに持久力(というかぶっちゃけ筋肉)がついてこないため、泳ぎながら四苦八苦。


 夏美と秋子は、スイスイ泳いでいた。


 この運動ブルジョアどもめ。


 一通り泳いだ後、休憩の時間と相成った。


「はぁ」


 疲労の吐息。


「清々しいくらい体力無いですね」


「まぁね」


 否定の仕様がない。


「やっぱり駄目だったですか?」


 何が?


「現実世界でデートしたいっていう私の我が儘が春雉の劣等感を刺激したなら謝らないといけません」


「かーっ」


 僕は、和三盆のかき氷を食べていた夏美に、抱き着く。


「可愛いなぁ可愛いなぁ!」


 潮風の香りたつ紅蓮の髪を、ワシャワシャ撫ぜる。


「あう……春雉……嬉しいけど止めて」


「はーい」


 最後に、クシャッと髪を撫ぜた後に、僕はハイビスカスジュースを再度飲みだす。


「雉ちゃん!」


「何でしょう?」


「これ企画したのは私」


「ソウデスカー……」


「私だって可愛いでしょ?」


「それは認める」


「可愛い可愛いしてほしいよ!」


「夏美に悪いし」


「私は構わないですよ?」


 そこは否定しとこうや。


「…………」


 うずうずと体を疼かせる秋子。


「可愛い可愛い」


 その黒髪を撫でてあげた。


「えへへぇ」


「秋子ちゃんはすごく春雉が好きなんですね……」


 夏美の眼差しは、いっそ優しさに満ちていた。


「うん。大好き」


 秋子も秋子で、遠慮が無い。


「二人は幼馴染なんですよね?」


「腐れ縁だね」


「運命だよ!」


 相反する、僕と秋子の言。


「いいじゃん運命で」


「なら不確定性原理に反論してみてね」


「むぅ」


 ということです。


「そういう夏美ちゃんだって雉ちゃんのこと好きでしょ?」


「え? あ、はい。大好きです。えへへ……」


 かき氷を食べながら笑みを綻ばす。


「絶対雉ちゃんを取り戻してみせるから……!」


「別にそうであっても私は構わないんですけど……」


 秋子や量子のアプローチに、目くじら立ててないもんね。


 それはそれで、


「恋人としてどうよ?」


 と問いたくなるけど、夏美との時間は、まだ秋子や量子と過ごした時間には、敵わない。


 幼馴染二人に、新参の自分が首を突っ込む、ということに引け目を感じているのは……まぁいつもの事。


「僕は純粋に夏美が好きなんだけどなぁ」


「はぅあ!」


 赤面する夏美だった。

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