第160話零と一の間の初恋1
「ぐしゅぐしゅ……」
秋子は、泣きじゃくっていた。
原因は僕。
中学生になりたての春頃。
桜も散ってしまい、中間テストが目の前の時系列。
とりあえず利き腕じゃなくて良かった。
何がかって?
骨折。
元がVRオタクですので、現実では、もやしっ子だ。
体の動きを操る能力には長けるけど、それに肉体能力が付いてこない。
結果、体育の時間に無理をして、腕を骨折。
近場の医大付属病院に連れて行かれた。
秋子も、ソレに付き合った。
秋子は、僕に心を仮託しているので、僕がちょっとでも傷を負えば、それだけで秋子が涙するには必要十分条件だ。
「はいはい。泣かない泣かない」
僕は利き腕で、秋子の頭を撫でる。
とりあえず、投薬と骨の固定と痛み止めで、様子見となった。
全世界を見れば、今日も何処かでデビルマン……じゃなくて今日も何処かで骨折した人が、多数いるだろう。
そういう広い視野を持てば、僕の骨折程度で、滅ぶ世界では無い。
「ぐしゅぐしゅ」
秋子は、泣き止まなかった。
「雉ちゃん痛い?」
「痛み止め打って貰ったから平気だよ」
ポンポン、と、軽く秋子の頭を叩いて、安心させる。
「でも日常に支障をきたすよね?」
「そりゃまぁ」
でも心配はしてない。
「雉ちゃんのフォローは私がするから」
「頼りにしてるよ」
苦笑した。
とはいえ、有り難い申し出を、袖にする余裕も無い。
片腕を封じられれば、食事はともあれ、風呂が問題だ。
ちなみにVRゲームに影響しない。
そのため、たまにヴァーチャルリアリティは、リハビリに使われる事もある。
運動認識を、脳にさせるための訓練だ。
基本的に、筋肉は電気信号に反応するだけだから、ヴァーチャルリアリティは、結構有意義なツールとなる。
閑話休題。
「食事も私が食べさせてあげるね?」
「それは自分で出来ます」
わくわく顔の秋子の提案を、すげなく却下。
とかく僕の役に立ちたい、という気質で、秋子は溢れている。
ワンコに懐かれた気分だ。
これで女子だったら言う事無いんだけど……。
まぁ宿業について言えば、僕も五十歩百歩なので、秋子にだけケチをつけるのは、あきらかに間違ってはいるんだけどねん。
ともあれ、
「シャワーで体洗うの手伝ってくれる?」
「うん!」
朗らかな笑顔と共に、頷いてくれた。
感性は女の子だけど、僕的に言えば、
「男の娘」
という観念だ。
その道の人たちには、垂涎の的なんだろうけど、
「何だかなぁ」
が僕の感想。
別段、同性愛に何かしらの感情を覚えるほどでも無いけど、自身には遠い認識である。
それからサクサクと、必要事項を終えて、お金を払い、外に出る。
春の終わりを感じさせる、まろやかな日差し。
まろやかかどうか、この際置いといて、
「こっちが近いよ」
という秋子に連れられて、広い中庭に出た。
ベンチが複数置いてあり、日当たりも良く、観葉植物もよく手入れがされている。
「へぇ」
と唸った。
無論、公爵の屋敷ほどではないけど、観賞するに値する風景だ。
主に
女の子だ。
それも容姿が、あり得ないレベルの。
黒髪黒眼の日本人的な少女には違いないけど、パーツの組み方があり得ない。
絶妙な左右対称で、静謐な彫像を思わせる。
黒い髪はセミロングで、ツインテールにしている。
肌は日本人にしては白い方で、桃色の唇が花を添えている。
着ている服は、入院患者様のソレだ。
ベンチに座って、本を読んでいた。
そっちに近づいていく。
「…………」
向こうも、こっちに気づいたのか、本から顔を上げてくれた。
視線が交錯する。
なんでもない僕の瞳が、黒真珠にも例えられる、女の子の瞳に映る。
合わせ鏡のように連鎖する、視線の交わり。
「あー……」
近づいたは良いけど、特にコミュニケーションについては、思考から欠如していた。
「何か用ですか?」
丁寧な口調で、女の子は問うた。
「あー……」
再度繰り返し。
「ふむ」
と唸って女子を見やり、一つの結論に辿り着いた。
「僕と付き合ってください」
「……………………は?」
女子は、ポカンとした。
それが僕の初恋だった。
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