第69話コの字デート6
「じゃあ結局コの字関係ってこと?」
シリョー……いや量子が、黒髪ツインテールを振り乱しながら、槍で雑魚を掃討する。
当然、超過疾走システムのアシストは、十倍きっかり。
僕と同等の速度だ。
同時に秋子と夏美とも同等だ。
このエリアには僕と量子しかいないし、無理にアバター名を使わなくても良いだろう。
「雉ちゃんも罪な人だね!」
「それを君が言う?」
僕は短刀グラムをふるって、雑魚キャラの首を掻っ捌く。
クリティカルヒットが出て、ポリゴンの破片となる雑魚キャラ。
もとより僕のレベルは950台。
ヘラクレスステージでも、あまり問題にならない。
無論僕の技量も、ソレを後押ししてるんだけど。
「何だかなぁ……」
量子はグロウランスを振るう。
ここでちょっと話題を逸らそう。
アイテムには希少価値がある。
順にコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、レジェンドレア、ミラクルレアと分類される。
後者になるほどレア度が高い。
そして僕の持つ短刀グラムと、量子の持つ槍グロウランスは、ミラクルレアに相当する。
その希少価値は最上級。
何せ十数億のプレイヤーがひしめくオーバードライブオンラインにおいて、一つしか存在しない名称通りの奇跡のアイテムなのである。
多分オークションに出せば日本円で十億を軽く超える。
ドルで億がつくかもしれない代物だ。
それほどオーバードライブオンラインはプレイヤーに愛されて、熱狂させているゲームと云うわけなんだけど、
「まぁねぇ」
僕にしてみれば運が良いだけの事だ。
僕のアバター……ハイドはラックのステータスをガン上げしている。
である以上、クリティカルヒットの威力増大はもちろん、アイテムのスティールやドロップにおいても、レアアイテムの当選確率が常軌を逸していると言える。
ちなみに量子の振るうミラクルレアの槍グロウランスは、僕が譲渡している物だ。
故に装備補正もあって、僕と量子にとってヘラクレスステージは、
「中々手こずる」
程度のモノでしかない。
無論、秋子や夏美や総一郎では、雑魚キャラに瞬殺されるステージなんだけど。
そして雑魚キャラを蹴散らし終えて一息つくと、大英雄ヘラクレスが現れた。
雄々しいというか猛々しいというか。
「ルオオオオオオオオオオッ!」
気迫抜群のボスキャラだった。
もっとも僕に気負いは無いし、はばかりながら量子もそうだろう。
「じゃあちゃっちゃと片付けますか」
「ラスアタは僕に回してよ?」
「分かってますよっと!」
ヘラクレスの攻撃を、超過疾走システムのアシスト恩恵で躱して、槍を振るう。
僕も疾駆した。
ヘラクレスの死角から、短刀グラムを振るう。
首を狙った一撃だ。
クリティカル判定が出て、レベル900相応のダメージが付加される。
「それにしてもコの字関係ね……。墨洲くんはどうでもいいけど、秋子ちゃんと夏美ちゃんには同情しちゃうなやっぱり」
ヘラクレスの巨体を相手にしながらも、減らず口を叩くあたり余裕が垣間見える。
「量子は秋子の事情を知ってるでしょ?」
「それを言うなら雉ちゃんは、秋子ちゃんの現状を知ってるでしょ?」
「…………」
黙して答えずヘラクレスの首を切り裂く。
「ねぇ? 気持ちはわかるけど、秋子ちゃんの慕情を斟酌してもいいんじゃない?」
「僕の気持ちがわかるなら、斟酌してくれてもいいんじゃない?」
「あ~いえばこ~いう~」
「お互いにね」
「夏美ちゃんも可哀想に」
「そっちの愚痴は秋子に言ってやって」
「雉ちゃんはそれでいいの?」
「…………」
駄目な理由がみつからないんだけど……。
言っても詮方無き……か。
「じゃあさ!」
ヘラクレスの心臓に、槍を突き刺しながら量子が言う。
「雉ちゃんは私に惚れれば!? そしたら釣り合いとれるよ?」
「有機ロボットにでも意識を移植する気? 電子アイドルが?」
「駄目かな?」
「僕には十三階段が幻視出来る。ていうか自己確立はどうするのさ?」
それほど量子の市場価値は半端じゃない。
少なくとも本来の仕事には従事してほしいものだ。
「む~。雉ちゃんのケチ!」
「何とでも」
飄々と答える。
「雉ちゃんの隣で、秋子ちゃんがパイオツを押し付けてるよ? 何も感じないの?」
「色々と精神修行にはなるよね」
「なるようにはならないんだ」
「……童貞ってだけなんだけど」
自分で言ってて悲しくなる。
でも挫けないぞ僕は。
「そろそろラスアタになるんじゃない?」
グロウランスでヘラクレスの肉を引き裂きながら、量子が言う。
「あいまむ」
頷いて、ターゲットを量子に設定しているヘラクレスの背後を取り、
「オンリーハートストライク!」
心臓にヒットした場合にのみ大ダメージを加算する……シーフとアサシンだけの特殊スキルで、ヘラクレスの心臓を貫く。
あまりにも高威力の必殺技を受けて、ヘラクレスはポリゴンの破片と散った。
スティールアイテムは無し。
ドロップアイテムはヘラクレスアバター。
「いる?」
ためしに量子に聞いてみる。
「嫌だよ。自分がそんなマッチョなアバターを繰るなんて……」
ですよね~。
とりあえずは台所事情と相談して、どうするかを取り決めよう。
そして僕と量子は、オドをログアウトするのだった。
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