第68話コの字デート5
「…………」
「あはははっ」
テンションと攻撃手段に違いはあれど、コキアとミツナはハッピートリガーと化していた。
魔法と銃の弾丸が、乱打される。
オドは無双ゲーと云うことで、数こそ多いものの一体一体の敵はさして強くもない。
コキアはウィザード。
ミツナはガンリアー。
どちらも遠距離支援だけど、超過疾走システムの恩恵によって敵を全く寄せ付けず……一方的に虐殺して回った。
「おおおっ! スターラッシュ!」
ソードマンのスミスも、雑魚狩りに参加している。
主にコキアのフォローに回っている辺り、その真意が窺えた。
知ったこっちゃござんせんが。
「私もデートしたかった! 何で呼んでくれなかったの?」
これは隣のシリョーの憤慨。
「仕事があったんだからしょうがないでしょ」
「むぅ」
シリョーは口を尖らせる。
「ハイドちゃんの誘いなら何にもまして駆けつけたよ?」
「別に必要ないしなぁ」
本音だ。
残酷でもあるけどね。
「じゃあさ。これからデートしよ?」
「セカンドアースは十分だよ」
「そうじゃなくて。私とハイドちゃんだけで高レベルクエストをするの」
「ふむ……」
「サードギリシャ神話エリアとかどう? ヘラクレスを狩りに行かない?」
「まぁそれくらいなら」
不承不承頷く。
「決まり! じゃあ手っ取り早くこのステージを終わらそ!」
そしてシリョーは、手に持った虹色の光を纏う槍で以て、雑魚を蹴散らしにかかった。
ついでにボスキャラまで撃破する三面六臂の大活躍。
非戦闘区域でお茶をしながら、ヘラクレスステージの確認をしていると、
「シリョーさん強いっすね。ありえないっす」
瞠目するスミスに、
「ども」
気楽に返すシリョー。
「まぁあれだけやりこめば……」
これはコキアの言。
「シリョーさんは、ハイドとコキアさんの知り合いなんですか?」
「幼馴染だよ」
まさか、
「かの有名な大日本量子ちゃんです」
などと暴露するわけにもいかず、お茶を濁す。
「同年齢? 同じイレイザーズのメンバーとして、リアルでも紹介できるかハイド?」
「無理」
僕の答えは簡潔を極めた。
電子データでしかないシリョー改め量子をどうやって会わせろと?
無論立体映像でコミュニケーションをとること自体は難しくない。
が、量子はしがらみが多すぎる。
僕の最たる悩み事の一角だ。
原因は僕で、理由も理屈も僕に起因するんだけど。
「ネット引き籠りだから。そっとしておいてやって」
「そ、そうか……」
スミスの口の端が引き攣っていた。
嘘はつかず……かつ誤謬を生み出す言葉で納得を引き出す。
それくらいの腹芸は僕とて出来る。
「じゃあシリョー。行くか」
「ん。その言葉を待ってた」
わくわくと云った様子で、オリオン三連星を瞳に(アバターだけど)宿すシリョー。
「ん? またクエストするんですか?」
これはミツナ。
「僕とシリョーだけでね」
これは僕。
「私もついていっちゃ駄目?」
これはコキア。
「特に意味ないから止めておいた方が無難だね」
これは僕。
「どこに行くんだ?」
これはスミス。
「ヘラクレス狩り」
これは僕。
「マジか……! 必要レベル500台だぞ……!」
「僕レベル950台だし」
「私500~」
「というわけで今日はここで解散。僕とシリョーでヘラクレス狩りに行くから」
「どうせだからアバター取れるといいよね!」
「まぁラスアタを僕に任せてくれればいけるんじゃない?」
「ヘラクレスのアバター……! ドロップしたら売ってくれ!」
「おぜぜが必要よ?」
「いくらだ?」
「ネットマネーで十万から交渉しようじゃないか」
「払えるか! 学生が! そんなに!」
「だってオークションに出したら二十万は付くし。今なら半額キャンペーンだよ?」
「そこはギルドメンバーのよしみでさぁ……」
「だから半額キャンペーン。僕としても苦渋の決断だ」
「むう」
「ま、てきとうに考えておいて。別に買い手はいるから、こっちとしてはスミスに固執する必要は無いんだけど」
「薄情者」
「耳が痛いね」
飄々と僕。
口笛なんか吹いたりして。
ちなみにひまわり娘。
さてさて、
「じゃ行こっかシリョー」
「アイサー」
そして僕とシリョーは、サードギリシャ神話エリアへと飛ぶのだった。
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