第67話コの字デート4


 ところでおさらいしておこう。




 夏美は総一郎に惚れている。


 それは言質が取れている。


 というか僕に、


「オーバードライブオンラインを指南して」


 と言ってきたのは、同様にオドをプレイしている総一郎に近づくためだ。


 僕にとっては、


「回り道にすぎるんじゃないのかな?」


 と思わせたけど、結論的に言ってこれは正しかった。


 何でって、結局こうやって夏美と総一郎は、セカンドアースとはいえ新宿でデートすることになったのだから。




 総一郎は秋子に惚れている。


 こちらは言質を取れていない。


 けど夏美のオド指南を却下したのに、秋子がオドをプレイしていると知った途端、態度を百八十度回転させた。


 その後も積極的に、秋子にアピールをしている。


 オドでのプレイは、ウィザードのコキア(秋子)をフォローするような立ち位置ばかりをとっている。


 代わりに僕が、ガンリアーのミツナ(夏美)のフォローに回っているわけだけど。


 もっとも超過疾走システムの極みを体現しているコキアとミツナに、援護なぞあまり必要ではないため、僕はシリョー(量子)と雑談している時間が長いんだけど。


 ともあれ、総一郎は秋子に新宿の新しいブランド店の情報をペラペラ喋りながら、服の好みなどを聞いていた。


 結果がわかっている身としては、涙を誘う。


 人の事は言えないけど。




 秋子は春雉に惚れている。


 言質は……取っているのかいないのか……。


 少なくとも、それを察せないほど鈍感ではない。


 同時に難題でもある。


 秋子は超一級の大和撫子。


 それは否定しない。


 好きな人のために尽くし、身を捧げることの出来る人間だ。


 であるため、その愛情を貰える僕は幸福なのだけど、


「でも秋子だし」


 という後ろめたさも同時にある。


 結局、僕の罪悪や罪科によって、今の条件が成り立っているのだ。


「秋子を拒絶していない」


 という一点において。


 それについて今考察しても無駄だから拒否するんだけどね。




 これで僕が夏美に惚れていたら、見事な四角関係が成り立つのだけど、さすがにそこまで軽い男では僕は無い。


 別に硬派を気取るつもりではないけど、


「夏美には総一郎と恋仲になってほしい」


 と真摯に思っている。


 とりあえずイレイザーズによって、僕と秋子と夏美と総一郎は運命共同体になったわけだけど、その誰もが救われないのだった。


 四角関係と云うには、僕の夏美への慕情が存在しない。


 けれど夏美は総一郎が好きで、総一郎は秋子が好きで、秋子は春雉が好きなのだ。


 コの字関係とでも云うべきか。


 始点が夏美で終点が僕。


 巡り巡る無為の連鎖。


 総合すると、そういう結論になる。


 知ったこっちゃないんだけどさ。


「とりあえずここで服を見てまわろうぜ」


 総一郎がそう言ってブランド店の敷居をまたぐ。


 無論、電子世界……セカンドアースでの店舗なのだけどアバターに服を着せるにもネットマネーは必要だ。


「秋子さん、欲しい服があったら言ってね? なんなら奢るし」


「いえ、遠慮します」


 秋子の即答。


 が、それでめげるほどの精神構造を総一郎は持っていない。


「まぁまぁそう言わないで」


 にこやかに総一郎は言う。


「男からデートに誘ったんだから男がデート代を持つのは必然だし?」


 リア充め。


 ピねばいいのに。


「雉ちゃん?」


「何でっしゃろ?」


「この服どうですか?」


 秋子が(あくまで電子世界のアバターである)試着した服を見せてくる。


 アルファベットの羅列したワンピース。


 もうすぐ夏だ。


 これくらい涼やかなファッションも良いだろう。


 ファッションは季節の先取りとも言うし。


「いいねぇ。ばっちし。じゃあ買ってあげるよ」


 これは僕ではなく総一郎の言。


 これこれ。


 お呼びでないよ。


「総一郎くん……」


 こちらはなけなしの勇気で総一郎に話しかける夏美。


 着ている服は血痕のついたシャツにダメージジーンズ。


「どう……かな……?」


「うーん。ダメジーはいいけどちょっとシャツがくどいかな」


「総一郎くんが見立ててくれない?」


「まぁいいけど。それじゃ秋子さんまた後でね」


 ちゃっかり秋子の存在をピーアールしながら、総一郎と夏美はあれやこれやと服の吟味をし始める。


 それを秋子は生暖かい目で見る。


 夏美の頬はほっそりと紅潮している。


「初々しいですねぇ……」


 そんな夏美を見て秋子はくつくつと笑う。


「だね」


 僕も苦笑せざるを得なかった。


 イケメンコミュ力最高潮ともなれば、女子のフォローは完璧らしい。


 それから僕らは、いくつかの服を買って店を出る。


 次は公園でクレープ(データ上の)を食べる予定だ。

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