第76話転換点1
「雉ちゃん起きて! はい起きる!」
「寝かせてよ~」
「キスしちゃうぞ?」
「起きればいいんでしょ……」
「何でキスは駄目なのよ!」
「面倒だから」
他に言い様が無い。
で、起こした幼馴染を見やる。
「おはよう量子」
「はい。おはよう雉ちゃん!」
ブラックセミロングツインテールの美少女(データ)との挨拶から今日が始まった。
さてさて、
「じゃあキスしよっか?」
「ふわわっ!」
一気に真っ赤になる量子。
「そりゃないんじゃない? さっき自分から挑発した癖に……」
「でも……あの……」
「一応キス行使権が二回分あるしね」
「じゃあ一回分を使って……」
あいあい。
ちゅ。
オーバーアシストによって現実に改ざんされるキス。
「あーっ!」
そして最悪のタイミングで秋子登場。
「雉ちゃんを起こしにいくだけじゃなかったの!? なんで量子ちゃん、雉ちゃんとキスしてるのよぅ!」
「雉ちゃんが好きだからだけど?」
「………………雉ちゃん?」
その三点リーダが怖いんですけど。
恐畏怖の感情が沸き立つ。
「私ともキス!」
「気が向いたらねん」
僕はけんもほろろ。
「雉ちゃん?」
これは量子。
「愛してるよ?」
「私も私も!」
「そうですかそれはとってこうえいでおそれいりますしきょうえつのきわみではありますかんしゃのことばをいくらかさねてもたりないでしょうけど、ところで朝御飯は?」
「何で朝御飯の進捗状況確認以外が棒読みなの!?」
「今更秋子や量子に求愛されたって……」
ねえ?
「とにかくおはよう秋子」
「はい。おはよう雉ちゃん」
「コーヒー頂戴」
「うん。今準備するね」
パタパタと僕の寝室から消えていく秋子。
コーヒーを用意するためキッチンに向かったのだろう。
出来た御子さんで。
出来れば起こさんで。
「眠い」
「起きる!」
わかってはいるけどさぁ……。
「量子は仕事ないの?」
「私の出てるニュース番組は今天気予報中。もうすぐ芸能情報のコメンテーターで呼ばれると思う」
売れっ子アイドルは大変だ。
おかげで食っていけるんだけど。
「というわけで私はもう行くね。雉ちゃんの顔も見れたしキスもしたし」
「頑張ってね」
「あいあーい」
ヒラヒラと手を振って量子は仕事場へと戻っていった。
とは言っても電子世界に距離は関係ないんだけど。
で、僕はダイニングに向かう。
コーヒーの香りが漂ってきた。
さすが秋子。
「はい雉ちゃん」
秋子はコーヒーカップを差し出してくる。
受け取る僕。
そして目覚ましかつ気付け代わりに飲んでニュースを起こす。
量子の出ている番組だ。
量子はキャッキャとアイドルらしく愛想を振りまいていた。
面貌良し体格良し器量良しの良し良し三昧だ。
そりゃバックに日本政府があれば当たりもするだろう。
元より国内ブレインユビキタスネットワークの監視システム。
ニュースに出ずっぱりともあれば顔が売れるのはそう難しいことではない。
なお涼子が美少女だっただけに偶像崇拝も難しい話ではなかった。
ニュースを見ながらコーヒーを飲み干して、それを合図に秋子が朝御飯を出してくれた。
今日は白御飯と焼き鮭と雌株と豆腐の味噌汁。
「いただきます」
形式だ。
たまに思うんだけど、
『生命を殺戮してバラして並べ立てる』
という点において『買い物リスト』と『ジャックザリッパー』にどれだけの違いがあるんだろう……とか思わないですか?
思わないですよね。
そうですね。
「どう? 雉ちゃん……」
「文句のつけようもなく美味しいよ。さすが秋子」
「お嫁に行く準備は万全だよ?」
「ご祝儀はどれだけ包めばいいのかな?」
「雉ちゃんの意地悪!」
ええ。
自覚してますとも。
そも、そうでなければ現状は成り立っていない。
そして僕は朝食をとり終えて寝室に戻り制服に着替える。
その間に秋子が食器を洗う。
双者ともに準備を終えると、
「いってきます」
と空虚な我が家に声をこだまさせて施錠。
面倒だけど学校です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます