第77話転換点2


「雉ちゃん。起きて」


 ゆさゆさと体を揺さぶられる。


 先にもそんな言葉を聞いた気がするなぁ。


「なんじゃらほい?」


 と思いつつ目を覚ます。


 秋子が傍に居た。


 制服姿だ。


「良く寝てたね」


 苦笑。


 それから皮肉。


 イメージウィンドウで時間を確認する。


 正午だ。


 あら?


「もう昼休み?」


「うん」


 量子質量変換で弁当を取り出すと秋子はいつも通りの席に座った。


「また夜更かし?」


「色々と考えることがありまして」


 事実だ。


 全てを語ってはいないけども。


 ふと隣の席を見やる。


 空白が埋め尽くしていた。


 席の主は不在。


 つまり、


「夏美は休み、か……」


 そういうことになる。


「当然と言えば当然だよね」


「当然と言えば当然ですね」


 何せあれだけ想い人にメタクソに言われたら……。


 僕だって引き籠りたくなる。


 ちなみに今日の弁当は巻き寿司だった。


 さすがに握り寿司を作る技術を秋子は持っていないけど、巻き寿司くらいなら器用に作れるのだ。


 具と御飯を海苔で巻くだけだしね。


 中身はマグロの刺身。


「はい。雉ちゃん。刺身醤油」


 小皿に刺身醤油を垂らして差し出してくる。


 何だこのパーフェクト超人は。


 閑話休題。


 巻き寿司を食べながら僕は言う。


「やっぱり余計なお節介だったかな?」


 何のことかと言えば夏美の話題だ。


「私としては墨洲くんの本心がわかってすっきりしたけどね」


 そげなあっさり言わなくとも。


 まぁ他人事ではあろうけども。


「でも欺瞞で付き合われるよりさっぱりしていいんじゃないかな?」


「当人に向かって言える?」


「…………」


 ですよね~。


 しょうがない。


 僕は巻き寿司を食べながら量コンを起動。


 意識で操作してちょっとした予約を取る。


 それから夏美にメール。


 とりあえずフォローの必要はあるだろう。


 何のかと言えば傷心の、だ。


 昨日の総一郎との会合。


 総一郎がおっぱいについて熱弁する傍らに居合わせたのは僕だけではなかったのだ。


「多分総一郎の本音が知れるだろう」


 と予想した僕が量子に頼んで秋子と夏美をステルス付きのアバターに変換させてプライベートルームに不法アクセスを犯したのである。


 ……こういう時は量子って便利ね。


 おかげでキス行使権を握られたんだけど。


 で、


「おっぱいおっぱい」


 言っている総一郎の言は余さず秋子と夏美と量子に伝わったのだった。


 で、


「貧乳の夏美には興味ない」


 とまで宣言。


 当然夏美は傷ついたろう。


「可愛いからご機嫌取りに優しくした」


 とまで言われてしまっては。


 再度言うけど僕だって引き籠りたくなる。


 そんな想い人が僕にはいないんだけど。


 とまれ責任は総一郎にあるとしても原因は僕にある。


 いずれ訪れる結論とはいえ心に傷を作ったのは紛れもなく僕に起因するのだから。


 秋子辺りは、


「気にせずとも放っておけば折り合いをつけるはずだよ」


 とは云うものの、


「当人になってみる?」


 そんな皮肉には沈黙した。


 勝手は重々承知なんだけどね。


 話題転換。


「雉ちゃん巻き寿司美味しかった?」


「毎度毎度だけどいつも通り」


「そっかぁ」


「美味しかったよ。いい子いい子」


 僕が頭を撫でてあげると、


「えへへ……」


 トロンと目を和らげる秋子だった。


「…………」


 チラリと総一郎の方に視線をやる。


「…………」


 妬んでる嫉んでる。


 そんな表情が顔に出たのか、


「雉ちゃん?」


 訝しげな秋子。


「何でもないよ」


 僕は半端に誤魔化した。

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